元グーグル米国本社副社長・村上 憲郎氏に聞く
(2)非連続に変化する量子の時代を生きていくためのヒント

FEATUREおすすめ
聞き手 クロサカ タツヤ
株式会社 企(くわだて)代表取締役、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任准教授。

量子コンピューターが量子超越のかたちで実証した「多世界宇宙」

村上 コペンハーゲン解釈に対して多世界宇宙解釈が勝利したというエビデンスが、量子コンピューターで量子超越のかたちで実現しました。マルチの宇宙でそれぞれコンピューティングが行われているから早いことになるわけで、波束の収縮のコペンハーゲン解釈からはそのイメージが出てこないんです。私は、多世界宇宙というのがこの宇宙のありようなんだ、ということを量子コンピューターが実証したんだと受け止めてわくわくしているんです。

クロサカ それに対して、経路探索や創薬に使えるからお金を出しましょうというのは、確かにさみしい話ですね。

村上 なるほどNP課題の通常のスーパーコンピューターでは解決できないとんでもない計算量を量子コンピューターが解決するというところはその通りなんですけど、そのバックにはそれこそ我々が住んでいるユニバースがユニではないということが実証されていく結果としてそういう量子超越のような計算力が登場しているという大きな意味が抜け落ちて、計算量だけを評価して予算つけますよというのが、さみしいねっということです。

クロサカ 全然違う話をあえてしますけど、「ブロックチェーンって何に使えるの」という問いがあって、ずっとこの問いを追いかけている人たちがいるわけです。ブロックチェーン研究者もそうだし、暗号資産の人たちもそうです。ブロックチェーンは何に使えるのという問いは、先ほどの量子コンピューターって他に何に使えるんですかねという問いと僕は同じ性質を持っていると思っています。「これは何々に使える」と言ってしまったら負けなんじゃないかという気がするんですね。「何に使えるか分かった」と言った人は、実は分かってない。ブロックチェーンは、計算ではなく台帳なので、量子コンピューターとは目指しているもの見ているものが全く違う前提ではこの二つはあります。ブロックチェーンは、台帳が永遠のスリップ(細長い一片の紐)になってくるわけですよね。世界中にあらゆる紐がうじゃうじゃできてくる状態。別にそれが協調する必要とかインターオペラビリティをとる必要はなくて、やみくもに紐がうじゃうじゃできる状態。紐の数だけ多世界があるんだというふうに考えると、これってちょっと面白いかもと思うわけです。

桐原 量子の世界と一緒ですね。

クロサカ でも答えは出ないんです。ブロックチェーンと量子コンピューターが重ね合うんですが、重ね合わせたとしてだからなんだっていうふうに言われるわけです。それで何に使えるかと聞かれるわけですが、それはどうでもよくて、重ね合わされるかもしれないと気づいてしまうと、気づいたことの喜びでにやにやしてしまう。これ結構楽しくないかなって気がするんですよね。

桐原 おっしゃる通りですね。利益になることが優先されていて、哲学と教養書と芸術を学ぶのも、結局、功利主義のためなんですよ。私はそこにいつも矛盾を感じています。ブロックチェーンやNFTという画期的なものが出てきても、何か商売やろうよという方向に行きがちです。

1 2 3 4 5 6