経済学者・井上智洋氏インタビュー(3)
「頭脳資本主義」の時代をいかに生きるか?
「頭脳資本主義」の時代:実態なき平均が示す大格差
桐原 組織そのものもAIによって変わっていくだろうと思います。個々の働き方についてはいかがですか? 井上さんの教え子である20代の人たちも、20年後30年後の働き方がどう変わっていくのか興味があると思うのですが。井上さんは生き残るための3つの要素(クリエイティビティ、マネジメント、ホスピタリティ)を挙げていますが、AIで働き方はどういう方向に変わっていくと考えていますか。
井上 会社に勤めて平均的な給料をもらうというスタイルが成り立たなくなると思っています。所得の分布を見ても、普通は中間層が分厚くてヒトこぶのグラフになるはずなんですが、日本ではフタこぶになって、中間のところが凹んでいるという現象がすでに起きていて、しかもその谷がどんどん深くなっています。これはアメリカでも同じことが起こっていて、経済学者のタイラー・コーエンという人が『大格差(Average Is Over)』という本で書いているのですが、平均的な所得とか平均的な生活水準という考え方が成り立たなくなりました。
池村千秋 訳
NHK出版
いま起きていることは、私は「頭脳資本主義」と呼んでいますが、企業の売り上げとか利益を決定づけるのは、労働者の頭数ではなくて、頭脳のレベルになりつつあって、その傾向はもっと進みます。頭脳を振り絞って高給取りになるか、社会的なニーズはあるけれども賃金の低い肉体労働につくかどちらかになりつつあります。そこは若い人は考えておいた方がいいと思います。そこそこの会社に入って安定した給料をもらうということがいつまで続くかわからないので、自分の強みを意識するだけじゃなくて、この職業はいつまであるんだろうということを考えてキャリアプランを練らなくてはいけない面倒臭い時代になっています。

『純粋機械化経済』より抜粋。井上智洋氏作成)
桐原 AI自身がプログラムをつくりはじめるとエンジニアという職業も安泰ではないですね。
井上 今はシステムエンジニアやプログラマーは引く手あまたですが、プログラミングの自動化が広がれば、どこかで需要が減少傾向を辿る可能性はあると思います。ただし、技術ができてから導入されるまでのタイムラグが相当あると思うので、プログラマーの仕事がある日一斉になくなるなんてことは起こらないと思います。雇用というのは徐々に減っていくのです。既に減りつつあるのは事務職です。事務職に就くのは厳しくなっていて、有効求人倍率は高くないです。あとは、金融業に行く人は要注意でしょう。ITに強くて金融業を変革するぐらいの気持ちがあればいいでしょうが、銀行に就職すれば一生安泰という時代でありません。
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