筑波大学名誉教授・精神科医 斎藤環氏に聞く
第5回 オープンダイアローグのひろがりとAIの精神医学への貢献は
AIは人の心に貢献できるのか
――オープンダイアローグにおいては身体性が重要だとのことですが、リモートで参加することはできないのでしょうか。
斎藤 可能です。従来は難しいと思われいたのですが、コロナ禍でフィンランドでもZOOMを使って実践してみたところ、意外なほどよい効果がみられたとのことです。その場にいるという身体性も大事ですが、ZOOMで話していると顔の表情や声のトーンからも身体性がにじみ出るので、そうした関与もあり得ます。
――それはとても希望の持てる話です。相談依頼から24時間以内に最初のミーティングが開かれることをきいて、治療メンバーが集まるのが難しいことも多いだろうと思ったのですが、リモート参加が可能であれば、治療の機会も広がりそうです。
斎藤 そうなんです。ですから、AIに過大に期待することとは別に、リモート化したりAIがアシストしたりということは、どんどん進めるべきだと思っています。最近のAI相談はデータベースに基づいてよい応答を返してくれて、患者さんが高い満足度を示されるのを実際に目の当たりにしています。もちろん責任を伴いますから人が管理する必要はありますが、AIが応答したり診断をサポートしたりする領域は、ますます広がっていくと思います。
――ほかにAI技術が心理療法に貢献できることはありますか。
斎藤 オープンダイアローグには、治療者同士が話し合うリフレクティングというプロセスがあります。このリフレクティングにおいて、AIをアシスタントとして使えるかもしれません。治療チームのパートナーがいない場合に、人間に代わって私と対話するようなイメージです。またオープンダイアローグでは、クライアントの知能や年齢の高低はさほど関係がないのですが、聴覚に障がいのある方が参加できない現状があります。聴覚障がいをお持ちの方々にたいして、話したことを文字にしてゴーグルに投影してリアルタイムの対話ができるシステムなどについては、AI技術に期待を寄せています。これは思考を伝えるということでなく、あくまでも聴覚のエンハンスメントや文字化という範囲においてです。
――オープンダイアローグの普及にあたっては、どのような取り組みをされているのでしょう。
斎藤 ODNJP(Open Dialogue Network Japan)という団体として、ワークショップを開いたり、トレーニングコースを設けたりして、プラクティショナー(実践者)を増やしていく活動をしています。私個人としては、主に講義とワークを行っています。また、昨年の10月に法務省が全国の刑務所でオープンダイアローグを実施することを決定しました。1つの国のすべての刑務所で対話実践を行うことは国際的に見ても前例のないことで、日本での関心が高いことの現れだと思います。いまは全国各所の刑務所に行って、講義やワークをしています。多忙な日々ではありますが、多くの方にオープンダイアローグを知っていただき、応援してほしいと思っています。<了>
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