東京都市大学教授 大谷紀子氏に聞く
第1回 AIがユーザーの感性に即した音楽を自動作曲する

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聞き手 都築 正明
IT批評編集部

AIがオーダーメイドの楽曲を作曲

 

――自動作曲でも共生進化を用いられているのでしょうか。

 

大谷 googleの“Music AI Sandbox”などAI大手がリリースしている音楽生成では、いままでに発売されたヒット曲を大量に学習させて万人受けする曲を生成します。私たちは、特定の感情を抱くような音楽がほしい個人をターゲットに開発をしています。同じ曲を聴いても人によって感じ方は違います。またGPUをつかってディープラーニングを行うようなシステムは、個人が気軽には使うことができません。私たちの自動作曲では、量販店で買えるようなパソコンで動くものを想定しています。

 

――ビッグテックの提供する音楽生成AIではテキストをもとに楽曲を出力しますが、先生のシステムではどのような入力方式を用いられるのでしょう。

 

大谷 たとえば、その人がふだん癒されたいときに聴く既存曲をいくつか入力すると、それらの楽曲の特徴を学習して、共生進化でその特徴を盛り込んだ楽曲を生成します。まったく違う曲でも、その人が癒されたいときに聴いている曲の特徴が含まれているので、生成された曲は、その人を癒やす曲になるだろうというロジックに基づいています。

 

――音楽理論に基づいた楽曲づくりになるのでしょうか。

 

大谷 はじめは音楽理論を組み入れるために、音楽大学の受験生なみに楽典の勉強をしていました。わからないことがあると音楽を専門とする共同研究者に尋ねていたのですが、勉強すればするほど、音楽には数学のような公式がなく、理論から外れていても成立することがわかりました。エキスパートシステムと同様に、プロの知識をすべて組み込むのは無理だということに気づいたので、不協和を生じさせない程度の最低限の理論だけが満たされるようプログラムすることにしました。

 

――音楽要素としては、どのような順で生成されるのでしょう。

 

大谷 まず入力した曲から特徴を学習して、共生進化で和音進行を生成します。次に私たちがメロディ・テンプレートと呼んでいるものをつくります。ここには、音符と休符のパターンと、音の高さが前の音より高い/低い/同じという3択の情報だけが含まれています。最後に、生成された和音と不協和にならない高さの音で構成したメロディーを生成して完成です。

 

 

 

――既存楽曲というのは、何曲か候補を入れるのでしょうか。

 

大谷 そうです。何曲でもよいのですが、多く選んでしまうと特徴が相殺されて面白みのない曲になってしまうのですが。研究室の学生たちは1曲ずつ入れて、元曲を当てるクイズをしています。

 

――イントロ当てクイズより難しそうですが、内部構造を感覚的に知るきっかけになりそうです。

第2回に続く

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