東京都市大学教授 大谷紀子氏に聞く
第1回 AIがユーザーの感性に即した音楽を自動作曲する
企業での研究職を経て再びアカデミズムの道に
――修士課程を終えられ、キヤノンに就職されたのですね。
大谷 キヤノンの研究所で自然言語処理のグループに所属していました。形態素解析エンジンを開発している部門もありましたが、私はそれを活用した検索エンジンの開発に携わっていました。当時イントラネットといわれていた企業内ネットワーク内の検索エンジンをつくったり、法人向けの特許検索プラットフォームを構築したりしていました。
――そこから、どのようないきさつでアカデミズムの世界に戻られたのでしょう。
大谷 学生時代の、人間の学習への興味がどうしても忘れられず、企業に属してからも、自分が教育に関心があったことを実感しました。教育ということで学習塾に就職しました。折に触れて相談を持ちかけていた志村先生に諭されて、もう1度研究畑に戻ることにしました。当時、志村先生は東工大を定年退職されて東京理科大で教鞭をとっていらしたので、東京理科大に助手として迎えていただくことになりました。
――再び志村先生のもとで研究をされていたのでしょうか。
大谷 初年度はそうだったのですが、その翌年に志村先生は東京都市大学の前身である武蔵工業大学の環境情報学部に異動されてしまいました。東京理科大学に残されるかたちになった私を慮ってくれて、武蔵工業大学で講師のポストを募集していることを教えてくれました。そこで応募して、無事に採用されて現在に至ります。
――博士号はどのような研究で取得されたのですか。
大谷 アナロジー学習に興味があったので、その研究もしたかったですし、キヤノンでは情報検索システムを開発していたので、その技術はあったのですが、学位取得のためにあたらしく遺伝的アルゴリズムの研究をはじめました。遺伝的アルゴリズムもアナロジーの1つだと思いましたから。
――自然界を真似て、システムを構築するということでしょうか。
大谷 そうですね。自然界で成立する法則ならば、コンピュータのなかでも成立するだろうという発想が、まさにアナロジーだと思いました。研究を進めて論文にまとめて、無事に博士の学位を取得しました。
――先生の業績には、音楽生成だけでなく土木や輸送、都市計画やサブカルチャーなど、多方面の研究があります。
大谷 表面的にはまったく異なりますが、すべて遺伝的アルゴリズムの共生進化というアルゴリズムを用いています。表面的には異なる問題を解決しているようにみえるかもしれませんが、私としてはすべて同じロジックに基づく研究です。お声がけをいただいた研究は断らないスタンスでいます。コスプレイヤーの方々の特徴分析や、土木分野の研究協力者は、それぞれ大学の同僚です。そうした点で、東京都市大学は人との縁がひろがる素晴らしい環境だと思います。