半導体のカーテン、コンピューティングパワーの天井
技術、経済、地政学から現在の論点をみる
第2回 半導体市場の覇権をめぐり鎬を削るプレイヤーたち
半導体企業のさまざまな形態
先の製造プロセスに沿って、主要な企業やビジネスモデルも整理しておこう。
以降は半導体エネルギー研究所顧問で、黎明期から半導体の製造プロセスに従事されてきた菊地正典氏の『教養としての「半導体」』(日本実業出版社)をもとにして解説しいていく。先に言ってしまうと、今回、紹介する半導体関連のビジネス書ではこの1冊がもっともお薦めであり、この節以外にも多くの内容で参照させてもらった。
ではまず、企業の形態から始めよう。
IDM(垂直統合型デバイスメーカー)と呼ばれる1社でほぼ全ての工程をまかなう企業と、水平分業型の企業がある。その水平分業なかでも、企画・設計のみをおこなうファブレス、主に前工程の製造プロセスを担うファウンドリー、後工程となるパッケージングやテストを行うOSAT(Outsourced Semiconductor Assembly and Test オーサットと読む)がある。
IDMの代表格となるのが、Intelやサムソン電子、SKハイニックスといった企業で、サムソン電子などは自社の半導体を搭載するスマートフォンなどの製品まで手掛けている。
ファブレスの中心である設計分野では当然、NVIDIA、AMD、クアルコムが目立つ。
注目しておきたいのが、半導体設計のソフトであるEDA(Electronic Design Automation 電子設計自動化ツール)を開発するEDAベンダーと、IP(Intellectual Property 知的財産)となる半導体設計図をライセンス販売するIPプロバイダーと呼ばれる業種だ。EDAベンダーではシノプシス、ケイデンス・デザイン・システムズ、シーメンスEDがビッグスリーと言われている。IPプロバイダーでは、ソフトバンク傘下のARMといった有名大手が存在したりする。
ファウンドリーで真っ先に名前があがるのが台湾のTSMC(台湾積体電路製造)だ。複雑で微細な設計図を実現してしまう技術力は現在のところ世界で唯一無二の存在となっている。先にIDMで名を挙げたIntelやサムソン電子もファウンドリー事業に注力しはじめており、TSMCが目立つとはいえ、もっとも競争が激しい業態でもある。とくにIDMで”一人負け”を囁かれるIntelにとってファウンドリー事業は起死回生の一打としたいところだ。最近もIntelはソニーの次世代ゲーム機PlayStation 6に搭載するチップの設計・製造契約でAMDに敗北しておりIDM 事業の先行きに暗雲が漂う。あの「Intel inside (インテル入ってる)」のビッグテックの盛者必衰を思わずにはいられない。