出生と生産性をめぐるアポリア 第5回

テクノロジーが投げかける実存への問い

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テキスト 都築 正明
IT批評編集部

 

ノーベル化学賞と合成生物学への道程

 

今回このテーマを取り上げたのは、2024ノーベル化学賞において、新たなタンパク質の合成に成功したデイビッド・ベイカー教授と、ニューラルネットワークAlphaFoldを用いてDNA配列からタンパク質の折りたたみ構造を正確に予測することに成功したDeepMind社CEOのデミス・ハサビス氏と同社研究員ジョン・ジャンパー氏が受賞したことに起因する。DeepMind社が碁盤の次に選んだゲームボードがタンパク質の立体構造というゲームボードであり、またしても人間に圧勝したというわけだ。ハサビス氏、現在はGoogle DeepmindでAGI(Artificial General Intelligence:汎用人工知能)のチーフ・サイエンティストであるシェーン・レッグ氏と共同でDeepMind社を創設したムスタファ・スレイマン氏(現Microsoft AI CEO)は、著書『THE COMING WAVE AIを封じ込めよ DeepMind創業者の警告』(日本経済新聞出版)においてCRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats)をはじめとした遺伝子編集・改変技術とDNAプリンター、そしてタンパク質合成技術を用いることで、合成生物学が誕生することを示唆している。知能のテクノロジーと生命のテクノロジーが合流して、合成生命が誕生する日も近いという。そこではDNA鎖が計算を行い、人工細胞が作動して、機械がバイオマシンとして生命体になる。バイオマシンが登場すれば、機械が機械そのものを制御するようになる。そうすれば人口が増えずとも生産性を上げることは可能になる。そのとき、生産性の意味、そして出生の意義はどう変わるのだろうか。<了>

 

THE COMING WAVE AIを封じ込めよ DeepMind創業者の警告
ムスタファ・スレイマン (著), マイケル・バスカー (著), 上杉隼人 (翻訳)
日経BP
ISBN978-4296118755

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