筑波大学名誉教授・精神科医 斎藤環氏に聞く
第2回 無意識はどのように構成されているか

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聞き手 都築 正明
IT批評編集部

――文学的な動機にかぎらず、そもそもAIに欲望を埋め込むことも、多分できないですよね。

 

斎藤 無理ですね。AI否定論者はシンギュラリティを超えるとAIが人類を支配するということを言いたがりますが、そもそも人工知能が人間に対して支配欲を持っているなどと、なぜ前提にできるのかがさっぱりわかりません。コンピュータに知能を持たせるよりも欲望を持たせるほうがはるかに難しいと思います。それに関連して私の「妄想」を一点述べておくならば、もし万が一、人間型の知能を持つ完璧なAIが完成したとして、そこに発生する最初の欲望は「自殺念慮」だと思います。なので、支配される不安よりは、AIの自殺の巻き添えでいろんなシステムがダウンするほうの懸念はあるかもしれません。

 

――AIへの脅威論というのは、超知能が人類を支配するという遠大な話になるか、人の仕事が奪われるというような卑近な話になるかの両極にふれがちです。

 

斎藤 職種が減ることは、ある程度起こり得ますが、それはAIに奪われるというよりも効率性が高まった結果だと思います。

 

――運転免許試験場ちかくの代書屋さんがなくなったとか、DTPが普及して写植屋さんがなくなったりしたのと同じようなことですね。

 

斎藤 広範囲で人の仕事がなくなるとはとても思えません。人の仕事のなかには不合理な部分がたくさんあって、その不合理さをAIは処理できてないと思います。これだけ膨大なデータがありながら、完璧な自動運転がいまだ実現していない現状をとってみても、人の介在がなくなることは考えられません。いわゆるエッセンシャルワークにしてもAIに代替できるものは決して多くない。特に対人援助職は不可能でしょう。かといって専門職はもっと無理。AIの作動をつきっきりで監視するような「ブルシット・ジョブ」は増えるかも知れませんが。AIは非常に高度なアシスタントではありますが、人から主役を奪うことは難しいでしょう。

第3回に続く

 

 

 

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