AIの民主化と、AIによる民主化 イノベーションの望ましい帰結
第5回 AIエージェント活用に求められる新しい論理

生成AIやAIエージェントの進化により、これまで社会に取りこぼされていた人々がエンパワメントされる可能性が広がっている。まるでドラえもんの道具がのび太を助けるように、AIは弱者や貧者を支え、新たな価値を生み出す力となる。メリトクラシーに適応できなかった人々も、AIのサポートによって社会に役割を見出し、自己実現を果たせる未来が現実になりつつある。
目次
エンパワメントされる弱者
生成AIによってエンパワメントされる弱者や貧者を、わたしはドラえもんとのび太の関係だと考えている。
のび太は弱者の代表である。権威主義者のジャイアンと富裕層のスネ夫に対して大きな格差を抱えている。そんなのび太もドラえもんが四次元ポケットから出す道具によってエンパワメントされて格差を埋める。もちろん、おなじみでのび太は道具を悪用して、エンパワメントも水の泡に帰す。これは1話完結のコミックであればこそのオチであり、道具をうまく使いつづければ、のび太はみずからのポジションをアップさせていけるだろう。
ドラえもんの四次元ポケットはクラウドシステムのように場所を選ばずアクセスできるし、そこからでてくる道具はデジタルツールやアプリのように特定用途において他者との差異化を実現して──あるいは他者の優位を無化して──くれる。こうして、のび太という弱者はエンパワメントされる。
ドラえもんに喩えていくと冗談めいてくるが、最近、さかんに言われるようになっているAIエージェントの考え方はほとんどこの喩えの延長で説明できる。
『その仕事、AIエージェントがやっておきました。 ――ChatGPTの次に来る自律型AI革命』(技術評論社)のなかで、著者の西見公宏氏はAIエージェントの自律性について、メンフィス大学のスタン・フランクリンの論文の一節を引用する。
自律エージェントの定義
自律エージェントとは環境の中に位置し、環境の一部としてその環境を感知し、時間とともに自らのアジェンダを追求し、将来的に感知するものを実現するために行動するシステムである。
『その仕事、AIエージェントがやっておきました。』より孫引き
ドラえもんはのび太からの指示や依頼によって行動するわけではない。のび太の窮状を見かねて「もう、しょうがないなぁ……」などと言って、四次元ポケットを漁るわけだ。
これと同じようにAIエージェントはユーザーに自律的に対処していく。課題や問題に対して、必要なタスクを割り出し、タスクごとに必要なアプリやスキル(有名なAIエージェントBabyAGIではツールを「スキル」と呼ぶ)を呼び出して使用しアプトプットを創出していくのだ。BabyAGIの名をみてのとおり、このAIエージェントが目指すところはAGI(汎用人工知能)だ。
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