AIの民主化と、AIによる民主化 イノベーションの望ましい帰結
第1回 テクノロジーの転換点 生成AIはどのように社会に定着するか
生成AIはキャズムを越える
ハイテク製品や革新的サービスがいかにして一般ユーザーにまで普及していったかを分析したのはアメリカのコンサルタント、ジェフリー・ムーアが1990年代に発表、邦訳は2002年に刊行された『キャズム ハイテクをブレイクさせる超マーケティング理論』(川又政治訳/翔泳社)だ。
キャズムとは「溝」のことだ。先端的な製品やサービスがコアなユーザーから一般ユーザーにまで拡大する際に越えなければならない深い溝をこう呼ぶことは、ビジネスパーソンによく知られているだろう。
アメリカの社会学者、エヴェリット・ロジャースが『イノベーションの普及』(三藤利雄訳/翔泳社)で提唱した「イノベーター理論」による5つの分類、すなわちイノベーター(先駆者)、アーリーアダプター(初期採用者)、アーリーマジョリティ(前期追随者)、レイトマジョリティ(後期追随者)、ラガード(遅滞者)のうち、アーリーアダプターとアーリーマジョリティの間にキャズムが発生するとムーアは分析し、それをいかに越えていくか事例を交えたマーケティング戦略を指南した。
作画:may_tokyo
ところでエヴェリット・ロジャースの『イノベーションの普及』こそ、1960年代来、数十年にわたって読まれてきた名著で、その最終章は「イノベーションの帰結」と題され、イノベーションがもたらす結果を、望ましい帰結/望ましくない帰結、意図された帰結/意図しなかった帰結に分けて考察する。ここでわたしが繰り返し論じ、考えてきたテクノロジーの浸透がどんな未来をもたらすかをロジャースはこの名著で改訂を重ねながら考察している。ロジャースが重要視するのはイノベーションがもたらす格差の問題で、わたしの本質的な関心と通底しているのだが、残念ながら今回はこれ以上立ち入ることができない。手元においていながら精読が足りないのと、この古典とも言える名著については正面から取り上げなければいけないと思うからだ。
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