サイボーグ・フェミニズムの到来
第1回 アメリカを2分する人工妊娠中絶の議論
2024年11月の選挙結果を受けて、今年1月よりドナルド・トランプが4年ぶりに大統領に就任する。共和党と民主党の2大政党制をとるアメリカにおいて、保守とリベラルの論点セットとして取り上げられるなかには、生をめぐるものも多く含まれる。出生について記した前回に続き、ここでは人口妊娠中絶について考えることからはじめてみたい。
目次
出生をめぐる2つの立場
前回、テック・エリートたちが称揚するプロナタリズム(出生促進主義)を紹介したうえで、そこに優生学めいた選民意識を透かし見た。かれら自身の子どもにはIVF (In Vitro Fertilization:体外受精)や代理母による出生も含まれるが、いずれにせよ出産には女性のリプロダクティブ・ヘルス・ライツ(Sexual and Reproductive Health and Rights:性と生殖に関する健康と権利)が尊重されるべきであることはいうまでもない。
2024年11月に次期大統領選において共和党のドナルド・トランプが次期大統領に選出されたが、この選挙において重要な争点の1つが人工妊娠中絶をめぐる議論だった。カトリックやプロテスタント福音派をはじめとする保守層は、受精の段階で胎児を人間の命であるとして妊娠中絶に反対する“プロ・ライフ(pro-life)”の立場をとることが多く、リベラル層やフェミニストは女性の選択として妊娠中絶を容認する“プロ・チョイス(pro-choice)”の立場をとることが多い。アメリカでは従来、共和党支持者が“プロ・ライフ”を、民主党支持者が“プロ・チョイス”を主張している。
イギリスの慣習法を受け継いだ19世紀半ばまでのアメリカでは、初期胎動以降の中絶は認められなかったものの、実質的に妊娠中絶は合法だった。19世紀後半になって、それまで女性の助産師が行っていた生殖にかかわるケアを医師などの男性が担うようになり、ほぼすべての州法で妊娠中絶を禁止する法律が定められていった。