テクノロジーはイデオロギーから遠く離れて ポストモダンからポストヒューマンの時代へ
第2回 新しい階級闘争と中間層の再構築

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テキスト 桐原 永叔
IT批評編集長

民主的多元主義の可能性

 

民主的多元主義とは、社会における多様な利益、価値観、アイデンティティを公平に代表し、調整する仕組みを通じて民主主義を再構築するためにリンドが提唱する概念である。

 

民主的多元主義は、開明なテクノクラートによる少数者支配も、カリスマ性のある民衆の護民官(tribune of the people)による擬似多数者支配も、ともに否定する。というのも、民主的多元主義は、社会というものを、原子化された個人からなる流動的なかたまりではなく、それぞれが独自の制度と代表者を持つ多くの正当な共同体からなる一つの複雑な全体であると考えるからである。

『新しい階級闘争: 大都市エリートから民主主義を守る』

 

「開明なテクノクラートによる少数者支配」とはインサイダーによるテクノクラート新自由主義社会であり、「カリスマ性のある民衆の護民官による擬似多数者支配」とは多数のアウトサイダーに支持されたポピュリズム政治のことである。
そのうえで、「それぞれが独自の制度と代表者を持つ多くの正当な共同体からなる一つの複雑な全体」という民主的多元主義について、監訳者の施氏は本書あとがきでかつての日本社会を例にする。野口悠紀雄が『1940年体制—さらば戦時経済』(東洋経済新報社)で論じたような、戦時中に挙国一致の企図で形成された資本家と労働者を一体化し戦後も継続した日本型社会民主主義社会を、民主的多元主義の形態だと述べる。
リンドの論と、それを補足して日本に当てはめる施氏の論は、分裂の溝を深めるインサイダーとアウトサイダーをつなげる中間層の重要性を論じる。
これはいささか楽観的かもしれないが、今回の2つの選挙であらわれた都市部エスタブリッシュメントの動きは、こうした中間層の形成の萌といえるのではないか。

 

1940年体制(増補版) ―さらば戦時経済
野口 悠紀雄 著
東洋経済新報社
ISBN978-4492395462

 

第3回に続く

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