東京都市大学教授 大谷紀子氏に聞く
第2回 AIとミュージシャンとの合作で生まれる新しい音楽

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聞き手 都築 正明
IT批評編集部

大谷紀子氏へのインタビュー第2回。話題は自動作曲のシステムに及んだ。取材現場では、実際のシステムを前に行われた。実際に「きらきら星(フランス民謡)」「トルコ行進曲(モーツァルト)」「Dynamite(BTS)」の3曲を選び、生成した曲を聴いてみた。リストから候補曲を選び、数十秒ほどで曲が生成された。

取材:2024年8月7日 東京都市大学横浜キャンパス YC小ホールにて

 

 

大谷 紀子 (おおたに のりこ)

東京都市大学メディア情報学部情報システム学科教授。博士(情報理工学)。東京工業大学大学院理工学研究科情報工学専攻修士課程修了後、キヤノン株式会社入社。2000年東京理科大学理工学部経営工学科助手、2002年武蔵工業大学環境情報学部情報メディア学科講師。2007年武蔵工業大学環境情報学部情報メディア学科准教授。2009年東京都市大学環境情報学部情報メディア学科 准教授 (校名変更)、2013年東京都市大学メディア情報学部情報システム学科准教授 (学部改組)。2014年より東京都市大学 メディア情報学部 情報システム学科教授。著書として『進化計算アルゴリズム入門』(オーム社)、『アルゴリズム入門』(志村正道氏と共著・コロナ社)、『アルゴリズム入門(改訂版)』(志村正道氏と共著・コロナ社)がある。

 

 

目次

AIのつくったテーマ曲の効果で募金が2.8倍に

コラボレーションでひろがる自動作曲の可能性

AIの得意な作曲とミュージシャンの個性

社員の声をあつめて企業のサウンドロゴを制作

 

 

 

 

 

AIのつくったテーマ曲の効果で募金が2.8倍に

 

都築 正明(以下――) もとの曲を想像するのが難しいですが、それを考えながら聴くのも面白いですね。

 

大谷 紀子氏(以下大谷) 同じ曲を選んでも、毎回違う曲になります。いまは長調と短調とを混ぜることができないのですが、研究室の学生が卒業研究でチャレンジしています。複数の拍子の曲を混ぜてしまうと裏拍などの計算が複雑になってしまうので、いまは4分の4拍子の曲だけにしか対応していませんが、今後はワルツや変拍子にも対応できるようにすることも検討したいです。

 

――ミュージシャンの方ともコラボをされていますが、その際はデモのコードやメロディをつくるということでしょうか。

 

大谷 ミュージシャンとのコラボでは、8小節ぐらいのフレーズをたくさんつくりました。そこからミュージシャンの方が好きなものを選んで並べ替えて曲を完成させて歌詞をつけました。Aメロは複数のAメロから生成したものをつくり、サビもいろんな曲のサビをもとにしてつくって……というつくりかたをされていました。

 

 

 

――具体的な作品についてもお伺いしたいと思います。はじめに公開されたのが「akaihane」という楽曲ですね。あれはどういういきさつで、どういうプロセスで完成したのですか。

 

大谷 「akaihane」は、フォークデュオ“ワライナキ”さんとのコラボレーションでつくられた楽曲です。アーティストに使ってもらうために、システムをモディファイして臨みました。そのときワライナキさんのもとに、奈良県共同募金会から共同募金運動70周年記念応援ソングの生成依頼がきましたので、AIを使って制作することにしました。

 

――周囲には制作の経緯が知らされておらず、サプライズで発表されたのですね。

 

大谷 楽曲のお披露目をするときに、AIとの共同制作でつくった楽曲だということを公表して、それが新聞に掲載されたりもしました。お披露目のときに会場にいらした小学校の先生がとても気に入ってくださって、学校で赤い羽根共同募金を実施するときに、「akaihane」を流しながら活動してくださったという報告を後日受けました。

 

――子どもたちに訴求できたのは、教育に強く関心を持たれている先生にとっても意義深かったでしょうね。

 

大谷 驚いたことに、その年は前年の2.8倍の募金が集まったそうです。また休み時間に小学生が「akaihane」を歌っていたとも聞きました。自分の研究成果が社会に貢献できたことが研究者として本当に喜ばしかったですし、若年層に訴求したことはとても嬉しかったです。

 

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