東京外国語大学大学院教授・中山智香子氏に聞く 第5回 

世界のなかで日本のとるべき地歩

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聞き手 都築 正明
IT批評編集部

最終回では、編集長の桐原が示す半導体サプライチェーンの現状認識をもとに、比較優位と格差地代の観点からオルタナティブな均衡のありようが考えられた。中山氏の考えるこれからのグローバル・サプライチェーンのあり方と、そこで日本が再び存在感を示すためのビジョンとは。

取材:2024年9月4日 東京外国語大学中山智香子研究室にて

 

 

中山 智香子(なかやま ちかこ)

東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授。早稲田大学大学院経済学研究科理論経済学・経済史専攻博士後期課程単位取得退学。ウィーン大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(社会・経済学)。専門は思想史および経済学説、経済思想。近年は貨幣論と生態学経済の考察に注力。著書に『経済戦争の理論 大戦間期ウィーンとゲーム理論』(勁草書房)、『経済ジェノサイド フリードマンと世界経済の半世紀』(平凡社新書)、『経済学の堕落を撃つ 「自由」vs「正義」の経済思想史』(講談社現代新書)、『大人のためのお金学』(NHK出版)、『ブラック・ライヴズ・マターから学ぶ アメリカからグローバル世界へ』(共編、東京外国語大学出版会)など。

 

 

目次

日本と新興国とのパートナーシップを考える

日本がデジタルテクノロジーで復活するビジョン

 

 

 

 

 

 

日本と新興国とのパートナーシップを考える

 

都築 正明(以下――) 先生が日本に招聘されたり書籍で紹介されたりしたクルギ(keur gui)をはじめとするセネガルのヒップ・ホップには強さを感じます。トラックにお金がかかっているわけではないのですが。

 

中山 そうですね、お金をかけているわけではないですし、ファッショナブルでもありません。一方、メッセージ性が強くてかっこいいのですよね。

 

――アメリカの様式化したラップとは異なり、かつて奴隷として売られた側と見送った側、それにアメリカから送還された側のストーリーの重層性も感じます。

 

中山 私の隣に研究室のある真島一郎さんがセネガルに詳しくて、現地の長期滞在の後に「とんでもなく尖った奴らがいる」といって紹介してくれて、いっしょに学園祭の時期にシンポジウムやセミナーに招待することになりました。もちろんライヴもいくつか開催していただき、大きな反響を得ました。当時のかれらは「ヤナマール(もううんざりだ)」という憲法改悪に抵抗する非暴力の社会運動を率いていました。

 

――セネガルではラッパーを中心とする文化研究グループが、若者たちの就労支援をしていることからも、カルチャーの力を感じました。

 

中山 私の研究室にも、昨年度までセネガルからの留学生がいました。JICAから奨学金を得て来日して、博士論文を書いて帰国したのですが、かれは日本が新興国とパートナーシップを組めばよいと考え、いまは地域開発担当の国家公務員として、セネガルと日本を繋ぐ活動をしています。アフリカ諸国は旧宗主国であるヨーロッパ諸国にはよい感情を抱いていませんし、奴隷制のあったアメリカにも好感を持っていません。そう考えると、日本のような歴史的確執のない、宗教的に寛容な国とフラットに付き合うことが好ましいとのことでした。セネガルに限らず、新興国には頭のよいテクノロジーにも明るい人々はたくさんいます。途上国を助けるという視点でなく、対等に付き合うことができれば新しい産業構造が生まれる可能性があります。

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