半導体のカーテン、コンピューティングパワーの天井
技術、経済、地政学から現在の論点をみる
第1回 ソフトウェアは半導体の限界を突破できない

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テキスト 桐原 永叔
IT批評編集長

半導体の製造プロセスはふつう3つに大別される。
半導体の回路やレイアウト(パターン)の設計と、それらを転写して成形するためのフォトマスクを作成する「設計工程」が最初にある。
次に「前工程」といわれるのは、純度99.999999999%(イレブンナインと呼ぶ)のシリコンインゴットの生成から始まる。このインゴットを薄く切断しウェハーを作成して研磨する。その後、表面を酸化し絶縁体や金属などの薄膜を形成したところにフォトレジストを塗布。フォトマスク越しに紫外線で露光して回路パターンを転写(リソグラフィ)する。そのうえで酸化膜、薄膜をエッチングし、フォトレジストを洗浄する。そこにイオン注入を行い電極形成し、表面を研磨して平坦化する。最終的に、ウェハー検査で品質を確認する。フォトレジスト以降の工程は何度か繰り返され、写真などでよく見る複数のチップが並ぶ円盤(ウェハー)の状態になる。
半導体の集積度が増すほど「前工程」のそれぞれの段階で非常に高い技術力が問われる。よって、企業力ひいては国力が現れる部分が比較的に多いのもこの工程といえるだろう。
さて、半導体製造プロセスの「後工程」ではダイシングによりウェハーを個々のチップ(ダイ)に切断する。つづいてリードフレームといわれる金属枠にチップを設置して接続するワイヤーボンディングを行い、樹脂でパッケージする。これで黒い四角チップにムカデ状の端子を生やす、これまたよく見る半導体チップの姿になる。
これで完成ではなく、温度と電圧の負荷をかけ初期不良を除去するバーンイン試験を経て、最終的に製品検査・信頼性試験を終えてようやっと製品が完成する。
この製造プロセスの工程ごとで複数の企業が鎬を削っているが、1企業がほとんど独占している工程もある。その独占のために②経済、③地政学の点から注目されることとなる。
最初に述べたように、半導体の限界はそのままAIなどの最新のソフトウェアの限界に直結する。その限界は現代において、社会変化の限界ともなる。それだけに新しい素材、新しい装置といった先端技術が半導体の限界を突破したとき、世界の様相は大きく変えてしまうのだ。

第2回に続く

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