半導体のカーテン、コンピューティングパワーの天井
技術、経済、地政学から現在の論点をみる
第1回 ソフトウェアは半導体の限界を突破できない
半導体の話題が喧しい。生成AIをめぐる話題も相変わらず賑やかではあるが、それ以上に半導体に注目が集まっている。それは半導体が生成AIのみならず、多くの論点の根幹にあるものであり、現代社会の課題を浮き彫りにし将来の世界の問題を予言するものだからだ。
目次
「産業の米」と「新たな原油」をめぐる論点
かつて半導体は日本において「産業の米」と言われ、アメリカにおいては「新たな原油」と呼ばれた。それだけ重要な物資、戦略的な資源であるという意味だ。そして、その意味は現在も変わることがないどころか、ますます重要性を増し戦略的な意味を深めている。
この数年、なかでも今年に入って一斉に刊行された半導体関連の書籍を読み進めていけば、その論点は大きく次の3つに分類できる。
① 技術
② 経済
③ 地政学
①の技術はいうまでもないだろう。これまでにもここでの記事で再三にわたってふれてきたように、ムーアの法則どおり半導体の進化はそのままIT、AIの進化に直結している。
半導体の集積回路(IC)の集積度があがるごとに半導体の性能は一気に進化する。この集積度の向上にともなって指数関数的に半導体の性能は爆発的に進化してきた。ゴードン・ムーアがこの法則を唱えてからすでに半世紀以上を経ても揺るがずに半導体は進化を続けている。
その集積度が10億分の1メートルというナノメートル単位の領域に踏み込んだのは1990年代のことだ。そこからもすでに四半世紀を経て、180ナノメートル(0.18ミクロン)だった線幅はすでに3ナノメートルに達している。3ナノチップはiPhone15搭載されており。最先端の技術競争は2ナノメートルの域で行われている。
線幅とはトランジスタ内で電流のオン・オフを制御するゲート電極の幅のことで、この幅が小さくなるほど計算の速度があがり消費電力も下がる。半導体の性能を示す重要な指標である。
ちょっと考えれば当然のことではあるが、半導体というハードウェアの限界はそのままソフトウェアの限界である。半導体の限界とはつまりコンピューティングパワー(計算力)の限界であるからだ。
例を出しておけば、第3次AIブームが起こる契機となったディープラーニングは2000年代後半に実現したものだが、そのコンセプト自体は1980年代の終わりごろには発表されていた。ディープラーニングを実現するにはそれだけのコンピューティングパワーが必要だったということだ。