半導体のカーテン、コンピューティングパワーの天井
技術、経済、地政学から現在の論点をみる
第3回 日の丸半導体の現在と新たな期待
未来の技術による逆転を期す
半導体製造のグローバル・サプライチェーンにおいて、決して日本企業の存在が消えてしまうという状況ではない。とはいえ、かつての日本企業のステータスを知り、その衰退を目の当たりにしてきたわたしたちにはやはり日の丸半導体の未来は明るくみえない。
ここにきて、政府は半導体産業の復興に力を注ぎはじめた。莫大な補助金を投入する計画だ。これは国際的なAI分野、半導体産業への莫大な投資合戦に日本も本格的に参入したことでもある。
IBMと組んで2ナノメートルという次世代の半導体製造を目指すラピダスは投資総額5兆円をかけて北海道千歳市に工場を建設する予定だ。政府もラピダスに出資するとのニュースが流れたのは先月末のことだ。政府は研究開発支援としてすでに9200億円の補助を決定していた。ラピダスにはこのほかにもトヨタ、デンソー、ソニーグループ、NTT、ソフトバンクの8社から72億円が投資されている。
ラビダスの挑戦については同社の社外取締役であり、JSRの元会長である小柴満信氏が書いた『2040年 半導体の未来 AI・量子コンピューティングの時代』(東洋経済)が今夏の初めに刊行された。同書では、日本経済の未来を半導体産業の復活に賭け、失われた30年を取り戻すには今しかないと力説される。それには大きく2つの理由が挙げられる。
ひとつには、かつての日の丸半導体を支えた職人エンジニアがまだギリギリ現役である点だ。ラピダスはドクター、マスターの学位をもつ社員は合わせて50%を超え、優秀なエンジニアを確保している。こうした熟練人材の技術力は製造現場で活かされる。
さらにひとつには、生成AIブームにのって次々とスタートアップ企業が誕生している状況と、SiC (炭化ケイ素)、GaN(窒化ガリウム)といったシリコンに代わる新素材の登場、小さなチップ同士を繋げる、歩留まりの良い、生産性の高い生産方法である「チップレット技術」の浸透も進む局面がある。小柴氏はこうした「異種チップ集積(ヘテロジニアスインテグレーション)」について、ムーアの法則とは別の文脈ですすむ進化として「モア・ザン・ムーア(More than Moore)」と呼ばれているとし長足の進化を期待している。