半導体のカーテン、コンピューティングパワーの天井
技術、経済、地政学から現在の論点をみる
第3回 日の丸半導体の現在と新たな期待
かつては世界をリードしていた日本の半導体企業が、日米半導体摩擦やバブル崩壊によってその地位を失って久しい。新たな技術革新と政府の支援により、次世代の半導体製造を目指すラピダスは日本の経済復活の切り札となるのか。
目次
日本企業はどこにいるか
半導体をめぐる経済からの論点で、現在もっとも熱いのが日の丸半導体の復権、電子立国の復興だ。
半導体製造のファブレス、ファウンドリーで、日本企業のステイタスはきわめて弱い。
イメージセンサーのシェアの半分を主力製品のCMOSで握るソニーセミコンダクター、自動車などの高電圧を扱うパワー半導体市場で気を吐く三菱電機と富士電機、アナログ信号を処理するアナログ半導体でシェアを確保するルネサスの名が挙がるぐらいだ。
かつては、IDM(垂直統合型デバイスメーカー)こそ日本企業のお手のものであり、設計から製造までを行うことで大きなメリットを生みだしてきた。ところが、前回みてきたようにアメリカとの半導体摩擦にやられ、徐々に強みを失い、バブル崩壊で設備投資は冷え込んで多くの企業が撤退していった。
紫外線露光装置なども、2000年代初頭まではキヤノン、ニコンといった企業が大きな存在感を示していたのだが、不況がつづくなかでASMLに対抗するため投資すべきところが続かず撤退を余儀なくされた。キャッチアップはかなり困難な道とみられているが、キヤノンは2023年秋に5ナノ線幅に対応する先端半導体を低コストで製造できる露光装置を発表し巻き返しを図りはじめといる。
半導体の製造装置を開発する国内企業のなか、世界4位に位置づけられるのが東京エレクトロンである。製造プロセスの前工程におけるリソグラフィ後のウェハーのエッジング、洗浄のための装置に強みを持っている。それ以上に重要性をもっているのは、生成AIブームのなかGPU製造の工程においてである。AI用のGPUには、NAND や DRAMといった従来のメモリーではなく、HBM (高帯域高速メモリー)というGPUそのものにパッケージされる特殊なメモリーが必須となる。これがないと、NVIDIAの主力GPUであるH100も製造できない。HBMは構造が複雑で製造も困難である。HBM製造の際にウェハーを接合するボンディング装置開発の過半数のシェアを握っているのも東京エレクトロンだ。
また半導体製造の素材に目を向けると、シリコンウェハーを筆頭にフォトレジスト、絶縁材料など重要素材分野に占める日本企業は数多い。ニッチ市場でのグローバルトップ企業、シェア独占するオンリーワン企業の存在が光っている。どの企業も現場の職人技のすり合わせという伝統的な日本のものづくりの強みを生かしているのが特徴だ。
シリコンウェハーの信越化学工業、SUMICOは2社で市場の50%以上を占めている。フォトレジストでもJSR、信越化学工業、東京応化工業、住友化学、富士フィルムホールディングスの5社で90%近くのシェアを持っている。EUV用のフォトレジストの原料についても東洋合成工業1社で50%を超える世界シェアだ。
これがパッケージ、テストという後工程に使用される素材となると、絶縁材料のABFを手がける味の素がほぼ100%のシェアを握っている。ちなみにABFとは「味の素ビルトアップフィルム」の略。このほかにも複数の素材で日本企業だけで100%に近いシェアをもっている現状である。