半導体のカーテン、コンピューティングパワーの天井
技術、経済、地政学から現在の論点をみる
第2回 半導体市場の覇権をめぐり鎬を削るプレイヤーたち

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テキスト 桐原 永叔
IT批評編集長

TSMCのビジネスモデルで注目すべき点はPDK(Process Design Kit)を公開していることだ。PDKとは半導体の製造プロセスの装置や部材のスペックを明らかにした仕様書で、ファブレスは設計段階からTSMCの製造プロセスに準拠することで生産性を高めることができる。
TSMCに重要な製造装置を卸しているのがオランダのASMLである。ASMLは電気機器メーカーであるフィリップスのリソグラフィー部門がスピンアウトしてできた企業で、ベルギーの研究機関であるIMECと共同でEUV露光装置を開発している。2018年に世界で初めてEUV露光装置を実用化してブレークスルーを果たした。ASMLは世界的に唯一無二の存在でありASMLの製造装置がなければ、いかなTSMCでも3ナノという微細な半導体を量産することは不可能だ。ちなみにEUV露光装置は1台200億円を超える。重要な半導体サプライチェーンのほとんどの拠点をアメリカと東アジアにとられているヨーロッパ経済にとってもASMLは虎の子だ。
前回の最後に、EUVリソグラフィー(極端紫外線露光装置)を沖縄科学技術大学院大学(OIST)の新竹積教授らのチームが開発に成功したと付記しておいたが、この成功は日本のみならず、世界の半導体産業にとって非常に大きな意味をもつものだ。
しかしながら、現在までのところ沖縄科学技術大学院大学のこのニュースは専門サイト以外で報じられた様子がない。まだまだ実用化までにはハードルが数多くあるのであろうか。ASMLの一強を崩すには至らないのだろうか。
この頃の半導体をめぐる報道を見るにつけ、この扱いがどうにも釈然としないままだ。
それから、もう1点、気に留めておきたいのは製造プロセスの後工程を担うOSATについてだ。『教養としての「半導体」』で菊地氏は、後述するチップレット技術が今後、「普及拡大していけば、半導体業界の構造そのものに影響するゲーム・チェンジャーになる可能性」があり、「OSATの業務内容の変化やOSATを巡る業界の再編などが起きる可能性」も否定できないとして、新しい形態のIDMもありうることを示唆している。
かつてファウンドリーを「製造しているだけ」と下にみてきた日本のIDM企業の経営者たちが現在のTSMCを想像できなかったように、OSAT企業を「パッケージして、テストしてるだけ」とみることは同じ轍を踏むことになりかねない。

 

教養としての「半導体」
菊地 正典  著
日本実業出版社
ISBN978-4534060976

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