問いつづける子どもたちへ 教育社会学に魅せられた理由
勅使川原 真衣氏に聞く 第1回

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聞き手 桐原 永叔
IT批評編集長

わたしたちはテクノロジーの進化による利便性を享受しているが、一方で、仕事における息苦しさや辛さはいっこうに緩和されることはない。なぜそうなってしまったのか。著書『「能力」の生きづらさをほぐす』で、能力主義を信奉するビジネス社会に一石を投じた勅使川原真衣氏に、私たちを苦しめる固定観念やそれを解きほぐす知恵について聞いた。

取材:2024年11月18日 オンラインにて

 

 

勅使川原 真衣(てしがわら まい)

1982年横浜生まれ。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。外資コンサルティングファーム勤務を経て独立。2017年に組織開発を専門とする、おのみず株式会社を設立し、企業はもちろん、病院、学校などの組織開発を支援する。二児の母。2020年から乳がん闘病中。著書に『「能力」の生きづらさをほぐす』(どく社)、『働くということ 「能力主義」を超えて』(集英社)、『職場で傷つく ―リーダーのための「傷つき」から始める組織開発』(大和書房)、最新刊に『「これくらいできないと困るのはきみだよ」?』(勅使川原真衣編著、野口晃菜著、竹端寛著、武田緑著、川上康則著/東洋館出版社)がある。朝日新聞デジタル言論サイトRe:Ronほか、論壇誌『Voice』(PHP研究所)、教育専門誌『教職研修』(教育開発研究所)、日経ビジネス電子版で連載中。

 

 

目次

子ども心に芽生えたリーダーシップへの懐疑

適応は上手だけど問題提起ができないエリート

社会が当たり前に思っていることを突っ込んでくれる存在

フィクションを取り入れながら教育社会学の成果を表現する

 

 

 

 

子ども心に芽生えたリーダーシップへの懐疑

 

桐原永叔(IT批評編集長、以下──)まず、勅使川原さんが教育社会学に進まれたきっかけについてお伺いしてもいいですか。

 

勅使川原真衣氏(以下勅使川原) わたしは子どもの頃、いわゆる「評価」が大人からされにくい子どもだったんです。良い子どもだと思われにくい子だった。なぜかというと、問いが自分のなかにたくさんあって、みんなが当たり前に従っていることをいちいち聞いてしまう子どもだったので、先生から嫌われていました。本にも書いたのですが(『「能力」の生きづらさをほぐす』)、担任が代わったことで評価が180度変わるということを経験しました。「リーダーシップがあって素晴らしい」という評価が「リーダーシップが強くて問題だ」に変わったのです。先生はずるいなと思ったのが、わたしを嫌いっていることをリーダーシップという能力の問題にすり替えたことです。それが12歳の12月で、そのときから大人って本当に疑ってかからないと危ないなという不信感を持つようになり、中学高校時代は、おとなしく過ごしていました。

 

──能力への懐疑が芽生えたわけですね。

 

勅使川原 大学でもおとなしく過ごしていたのですが、就職する段階になると、急にリーダーシップが求められて、就活生同士のグループワークでも、みんななんちゃらリーダーやってますとか言うんですよね。で、リーダー役を買って出る人同士がいがみ合うみたいなことが平気であって、「またリーダーシップかよ」って気が重くなることを20歳超えてから経験します。そこで、リーダーシップみたいな、本当は疑う面もあるのに信じて、とりあえず実装したふりをして走りつづけているという姿を、アカデミックに解明しておきたいなと思い、大学院で学びはじめたというのがきっかけです。

 

──今のお話は、小学校の頃にクラスのなかで目立つとか率先することについて、リーダーシップという便利な言葉を使われたということでしょうか。

 

勅使川原 そういうことですね。今で言うと「尖り」とかと似ているかもしれません。

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