「能力」の呪縛を解く鍵とは
勅使川原 真衣氏に聞く 第4回

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聞き手 桐原 永叔
IT批評編集長

勅使川原氏が、がんの発覚と死の覚悟のなか、子供たちへの手紙として書いたのが『「能力」の生きづらさをほぐす』である。「能力」という軸だけで人間を測る現代社会のあり方に疑問を投げかけ、ケアや共感の重要性を説く本書は、医療や教育、障害者支援の現場で広がりを見せ、多くの共感を集めている。

取材:2024年11月18日 オンラインにて

 

 

勅使川原 真衣(てしがわら まい)

1982年横浜生まれ。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。外資コンサルティングファーム勤務を経て独立。2017年に組織開発を専門とする、おのみず株式会社を設立し、企業はもちろん、病院、学校などの組織開発を支援する。二児の母。2020年から乳がん闘病中。著書に『「能力」の生きづらさをほぐす』(どく社)、『働くということ 「能力主義」を超えて』(集英社)、『職場で傷つく ―リーダーのための「傷つき」から始める組織開発』(大和書房)、最新刊に『「これくらいできないと困るのはきみだよ」?』(勅使川原真衣編著、野口晃菜著、竹端寛著、武田緑著、川上康則著/東洋館出版社)がある。朝日新聞デジタル言論サイトRe:Ronほか、論壇誌『Voice』(PHP研究所)、教育専門誌『教職研修』(教育開発研究所)、日経ビジネス電子版で連載中。

 

 

 

 

目次

がんを宣告されて子供たちに残すために書いたデビュー作

本当にできる人はケアをできる

痛みなく失敗を経験するためのデジタル活用

コミュニケーションを能力として測定する理不尽

 

 

 

 

がんを宣告されて子供たちに残すために書いたデビュー作

 

──『「能力」の生きづらさをほぐす』は、もともと研究者気質的な勅使川原さんが柔らかく書かれているじゃないですか。読者の想定はどういう感じだったんですか。

 

勅使川原 まさにこれを書きはじめた2021年夏は、がんが見つかってからちょうど1年ほど経った頃で。肺のほうにも転移があったりして、もう自分は死ぬなって思っていたんですよね。でも私は1人で子どもを2人育てているんで、なんか残さなきゃいけないって思って、そんな相談を実は本書の執筆伴走者である磯野真穂さんにしたら、お子さんに向けて書いたらどうですかと言ってもらったんです。

 

──それでファミリードラマになっている。

 

勅使川原 そうです。子どもたちが大きくなったら手紙として読んでほしいっていう1冊なんです。でも、なんか死にそこなっちゃって、医者も説明できないぐらい元気になってしまって、死ぬ死ぬ詐欺だと言われてるんですけど。

 

──刊行されてからの反響が大きかったとお聞きしましたが、どういう方からの声が多かったのですか。

 

勅使川原 業界で言うと、医療職の方と教育関係者ですよね。学校の先生が読書会を各所でやってくださって。あとは就労支援で障害者雇用に携わっている事業所同士で結構連携されているので、広めてくださって、いろんなところに呼んでいただいて講演をさせてもらったりとか。人間の命の重さには軽重が本当はないはずなのに、そこが序列づけられていることに戸惑っている人たちが広めてくださった感じがします。

 

──仕事そのものに責任感を求められる分野の人たちでもありますね。

 

勅使川原 おっしゃる通りですね。確かに人生と仕事が直結してるような方々ですね。

 

──皆さん、「このままじゃおかしい」というか、さっき言われたみたいに、「これを80歳までやるのか」という思いはどこかにあるってことですよね。

 

勅使川原 そうだと思います。でもいかんせん、大企業のトップは、私の本は読んでくださらないわけですよ。またなんか言ってるよという感じなんですよね。能力主義で勝ちつづけてきた人に刺さるかたちをしてないというのは、これからの課題だなと思っています。

 

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