出生と生産性をめぐるアポリア 第3回

産めよ、増やせよのプロナタリズム

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テキスト 都築 正明
IT批評編集部

シリコンバレーのテック・エリートたちの間には、プロナタリズム(出生促進主義)という思想ムーブメントが広がっている。しかしそこには、白人保守主義に基づく選民意識や優生思想が透けてみえる。

 

 

目次

シリコンバレーに広がるプロナタリズムという思想

プロナタリズムの背後にある選民意識

 

 

 

 

 

シリコンバレーに広がるプロナタリズムという思想

 

人類の滅亡を最大の危機とする出生主義は、前回紹介した効果的利他主義と親和性が高い。AI倫理研究者のティムニット・ゲブルと哲学者エミール・P・トレスはシリコンバレーのテクノクラートの思潮を“TESCREAL”と評している。トランスヒューマニズム(Transhumanism)、エクストリピアニズム(Extropianism)、シンギュラリタリアニズム(Singularitarianism)、宇宙主義(Cosmicism)、合理主義(Rationalism)、効果的利他主義(Effective Altruism)、長期主義(Longtermism)の頭文字をつなげたものである。エクストリピアニズムというのは、エントロピーの対義語として用いられるエクストロピーを志向する態度のことで、テクノロジーによる不老不死を信奉する立場のことである。近年ではこれにプロナタリズム(Pronatalism: 出生促進主義)が加えられることもある。

このプロナタリズムのスポークスパーソンとなっているのが、プロナタリズム財団を設立するシモーヌ・コリンズとマルコム・ジェームズ・コリンズの夫妻だ。ケンブリッジ大学を卒業後にピーター・ティールのもとで働いたこともある妻とスタンフォード大学卒業の夫のエリート夫婦は、出生率の向上を奨励し、人口崩壊のリスクを積極的に警告している。ニューライト(新保守)を自称し、ポスト・トランプの保守思想を広めることを目指する夫妻は、人工授精により4人の子どもを設けるほか、1回に2万ドルを費やして30個の卵子を凍結保存し、少なくとも7人の子どもを設けることを目指している。人工授精の前には受精卵の複雑な遺伝子検査を行い、先天性疾患のリスクだけでなく、ランクづけに基づいて自分たちの期待に応える“知性の高い”子どもを産むのに最適な胚を選択するという。幼少期の発達において重要なのはしつけよりも遺伝だと主張する夫妻が子育てに手をかけるのは18か月までで、それ以降は誕生日やクリスマス・パーティなどの“無駄なこと”はせず、おもちゃもすべて賛同者からのもらいもので済ませているという。また公共の場で子どもがマナー違反をすると、人目をはばからず頬を張ることも厭わないそうだ。こうした子づくりへのアプローチは、夫妻曰く「データとエビデンスに基づいた効果的利他主義に基づく行動」であり、イーロン・マスクのような「保守運動の新たな知的リーダー」を数多く育てることを目指しているという。

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