いかにしてデジタル・デバイドを乗り越えていくか
メガ自治体・世田谷区が取り組む「脱・紙管理」 第2回

STORYおすすめ
聞き手 IT批評編集部

世田谷区は、DX推進体制の提言も盛り込んだ「新たな行政経営への移行実現プラン」を策定したほか、IT業界出身である松村克彦副区長が最高デジタル責任者(CDO)に就任したことで、全庁的にデジタル化を推進している。大規模自治体ならではの悩みや、職員を巻き込んでいく取り組みについて聞いた。

取材:2024年10月17日 世田谷区庁舎にて

 

 

世田谷区人事課の鈴木さん(左)、中村さん(中)、白石さん(右)

 

 

目次

規模が大きいが故の悩み

DXを進めることによって行政への参画を促す

まずは職員の意識から先に変えていく

世田谷区役所専用の生成AIを内製で開発

 

 

 

 

規模が大きいが故の悩み

 

――今回の勤怠管理のDXについて、他の自治体でも似たような悩みはあるのでしょうか。

 

中村氏 東京23区に限った話かもしれませんが、他区の人事担当者と話をすると、いまだに紙でやっていますみたいなところも散見されるので、同じ悩みを共有しているはずです。やはり紙での管理には限界があるので、システム化しなければいけないという認識は、どこでもあるという風に感じています。

 

――世田谷区は、業務のデジタル化としてはどのレベルにあるのでしょうか。他に自分たちよりも先進的だなと感じる自治体はありますか。

 

白石氏 渋谷区さんがすぐに思い浮かびます。勤怠ももちろん、職員コミュニケーションにもデジタルツールを導入していて、かなり進んでいる印象は受けます。

 

鈴木氏 やはり、ビットバレーのお膝元だからデジタルリテラシーが高いのかもしれませんね。どの自治体でも、自分たちが慣れ親しんだやり方から脱することは相当難しいのですが、そこを打破できたのが渋谷区さんだったのかなと思います。

 

――規模が大きいが故にDXが進みにくいという側面はありますか。

 

中村氏 規模が大きい自治体は、何かを変えようとすると、すごいエネルギーが必要になります。世田谷区は人口規模も職員規模も大きいので、新しいことを始めるとなると、いろんなハードルが出てきます。今回、AIZE という顔認証打刻のシステムを契約するまでにいろんな自治体にヒアリングしたのですが、政令指定都市クラスの大きな自治体は似たような課題を持っていました。例えば、小さな自治体であれば、職員全員にPCやタブレットを配ることができますが、大きな自治体ではそれができません。

 

――小規模のほうが動きやすのは、意思決定の早さもあるかもしれませんね。

 

鈴木氏 意思決定の早さもありますが、初期投資がそれほどかからないということが大きいと思います。何か起きたときにリカバリーがしやすいというのもポイントです。大きな組織になると、軌道修正するときに末端まで届くまでにタイムラグが生じて混乱しがちです。

 

――規模が大きいだけに、変革のスピードが遅いということはありそうですが、逆に規模が大きいだけに、うまくやれると効果も大きいはずですよね。

 

白石氏 そうですね。新入職員が入庁する時に世田谷区を選んだ理由として、「ソーシャルインパクトが大きいので」と答えた方がいました。世田谷区がやれば、他の自治体にも波及するということはあるかもしれません。

 

1 2 3 4