「リベラルの敗北」では語れないふたつの選挙の共通点
マスメディアは何に負けたのか?
インテリジェンス・トラップとメリトクラシーの地獄 第1回
11月、ふたつの選挙結果がメディアを賑わせた。ドナルド・トランプがアメリカ大統領に、齋藤元彦氏が兵庫県知事にという、どちらも返り咲き当選だ。これらの結果は世の良識を代表するとされてきた知識人たちの眉を大いに顰ませるものであった。
目次
保守VS.リベラルというストーリーの終焉?
11月5日、共和党候補のドナルド・トランプは激戦州も制覇して圧倒的な勝利でアメリカ大統領に返り咲きを決めた。前々回の2016年の選挙で当選し1期、大統領を務め、2020年の大統領選で民主党のジョー・バイデンに敗れたが、今回、民主党のカマラ・ハリスに対し大差の得票で勝利した。就任は2025年になるが、この11月の大きなニュースであった。
トランプと並べることはやや違和感があるが、もう一方の返り咲きは兵庫県知事の齋藤元彦氏である。こちらは、パワハラ、おねだりの疑惑が浮上し県職員の自殺もあって、地方自治法第100条に基づき地方議会が議決により設置する特別委員会が兵庫県議会に設置されて厳しい追及を受けた。ふつうであれば、このあたりで辞職という流れであったろうが、齋藤氏は「任期満了まで仕事したい」と職に留まったために、県議会で不信任決議が可決されて失職となった。それが9月30日のことである。
それから1カ月半後の11月17日、齋藤氏は誰もが予想しえなかった返り咲きを果たしてみせた。この間にはかつてみたことがないダイナミックなムーブメントが起き、終わってみれば前回の選挙を14.55ポイントも上回る投票率55.65%を記録し、齋藤氏自身も前回より25万票以上多い111万票を獲得した。2位の無所属ながら自民党と立憲民主党という呉越同舟めいた二大政党の支持者から応援があった前尼崎市長の稲村和美氏に、齋藤氏は13万票以上の差をつけた。
政治信条で、トランプと齋藤氏を比較、考察するのはあまり意味がないだろうが、このふたつの選挙にはよく似た印象を受けた。まず挙げられるのは、どちらもマスコミの予想──あるいは期待と言ってもいい──を大きく裏切る結果が出たことである。
選挙結果を報じるマスコミの困惑は、どこか歯切れの悪い弁解じみたコメンテーターたちの言葉に表れていた。
もうひとつは、両者を支えたのが都市部のエリート層というより、より下層の一般庶民だったということだ。いや、誤解されないように付言しておくが、都市部VS.山間部とかエリートVS.庶民といった、従来のリベラルVS. 保守という大きなストーリー軸はあまり感じられず、これまでとは様相の違う対立軸が明瞭に現れたようにも見えた。
大統領選では、多くのホワイトカラーのエリートたちが躊躇うことなくトランプを支持したし、齋藤氏も都市部で得票でも2位の稲村氏を上回る結果を得ているのだ。