ソフトウェアからハードウェアへ IT技術25年周期説で占う未来
第1回 再びフラットな競争の時代が訪れている

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テキスト 桐原 永叔
IT批評編集長

仮にも「生成AI時代」と名のつく書籍を出したこともあって、時代変化にいつもより敏感になっている。種々の生成AIサービスの登場によっていよいよAIが社会に浸透する時代が始まるのはもはや自明としても、それらが世界にどういう変動をもたらしうるのかを考えてみたい。

 

目次

日本の「電卓戦争」から生まれたCPU

30年ぶりの時代変化、チャンス到来

 

 

 

 

 

日本の「電卓戦争」から生まれたCPU

 

前回の#47「スペクタクル、東京、近代個人主義」で、東京大学の吉見俊哉名誉教授の歴史の25年周期説に準じて、主にITの進化とそれに連なるビジネス界の変化を見ておいた。かいつまんで説明しておこう。

ITの進化におけるメルクマールとなる重要な出来事は25年から27年の周期で発生している。具体的には初期のコンピュータ「ENIAC」が登場した1946年からちょうど25年後の1971年にマイクロプロセッサ(CPU)が開発され、その24年後、1995年にWindows95の発売でインターネットが普及、さらに27年経って2022年にはOpen AI GPT-3.5が公開され、いよいよ「生成AI時代」が始まった。付言しておけば、レイ・カーツワイルが予言したシンギュラリティを超えるのは2045年、GPT-3.5公開からは23年後にあたる。

前回は触れられなかったが、この周期において技術は象徴的なハードウェアの姿で時代を画していく。

ENIAC以降には、メインフレームといわれる大型のコンピュータシステムが企業や政府機関に導入された。ENIACなど最初期のコンピュータに用いられたのは真空管であったが、それらは数年後、徐々にトランジスタに置き換えられていく。

1971年、Intel社が開発した「Intel 4004」が、世界初の商用マイクロプロセッサとして登場する。複数の回路をチップに集積するという「4004」を端緒とするアイデアは、もともとは1969年に日本のビジコン社(当時は日本計算器販売会社)が、プリンタ付計算機の開発に伴い8種類のカスタムチップの設計を依頼したことに原点がある。

ビジコン社ではその数年前からプログラム内蔵方式の電卓の開発を進めていた。プログラム内蔵方式は、ソフトウェアによってハードウェアの機能に柔軟性がもたらされる。ゴードン・ムーアらが創業したIntel社の技術者は、プログラム内蔵方式の電卓のために、プログラムによってさまざまな用途に使えるチップを設計したのだ。これが世界初のマイクロプロセッサ(CPU)となる。

「電卓戦争」といわれた、この時期については『電子立国日本の自叙伝 完結編』(相田洋著/ NHK出版)に詳しい。この本は有名なNHK特集の書籍化で、番組の放映は1990年代前半だ。この時期、日本は半導体の分野で世界のトップにあり、まさに電子立国を体現していたのだが、いまや隔世の感が拭えない。

 

 

電子立国日本の自叙伝 完結
相田 洋 著
NHK出版
ISBN978-4140800195

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