ソフトウェアからハードウェアへ IT技術25年周期説で占う未来
第4回 再びクローズアップされる半導体をめぐる動き
半導体をめぐる国家の攻防は日米から米中に移行した。大きな歴史の歩みのなかで、韓国、台湾、シンガポールという重要なプレイヤーをめぐり目まぐるしく様相を変えている。次の25年、日本の半導体産業の復権はありうるのだろうか。
目次
経済安保問題としての半導体
生成AI時代、改めて注目を浴びているのがGPUをはじめとする半導体である。現在の株価を牽引する大要因のひとつはNVIDIAといった関連企業の株価の急騰にある。投資家のみならず、一般の人たちからも半導体に熱い視線が集まりつつある。それは、「週刊 ダイヤモンド」や「週刊 東洋経済」といったビジネス誌において、今年に入ってすでにそれぞれ2回、半導体の特集が組まれたことでもわかる。
「週刊 ダイヤモンド」の8/24号は「半導体頂上決戦 エヌビディアVSトヨタ」という特集タイトル、「週刊 東洋経済」の8/10-17合併号のそれは「エヌビディアの猛威 半導体覇権」となっている。話題の中心にはNVIDIAがいる。
ほかにもこの春あたりから関連のビジネス書が刊行されているのも目につく。そのうち何冊かを紹介していこうと思う。
本国では生成AI以前に刊行されていたクリス・ミラーの『半導体戦争 世界の最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防』(千葉敏生訳/ダイヤモンド社)は、邦訳がちょうどGPT-3.5ショックのさなかに発売されたA5版550ページの大部である。
トランジスタ誕生の黎明期から、半導体産業の基軸をつくったアメリカの企業の成り立ち、トランジスタの商用を実現した物理学者ウィリアム・ショックレーの発想や、真空管からトランジスタ、ゲルマニウムからシリコンといった素材の変遷を辿る。
そうしてやがて日本企業が台頭し、敗退を余儀なくされたアメリカ企業は政治の力を使って日本を締め上げる。その間隙をぬって台湾、韓国の企業が成長するなか、Intelの復活によってアメリカ企業も息を吹き返す。そして、ファブレス、ファウンドリに分かれた産業構造、前工程と後工程という2つの開発工程のなかで複雑にからむ素材、製造機械、紫外線による露光といった特殊技法、設計ソフト開発など、それぞれに激しい競争と勝ち残ったメインプレイヤーがいる状況だ。
クリス・ミラーの本は生成AI登場以前のこともあり、NVIDIAよりむしろ製造を専門におこなう台湾のTSMC(台湾積体電路製造股份有限公司)に注目する。数社による高度な製造技術の寡占が台湾海峡を挟んで地政学的にアメリカの安全保障にとって重要な問題となるからだ。
ミラーがいうように半導体の性能がそのまま武器の性能を左右する。それは武器の「知能化」といわれる。しかも、半導体はそのほかの産業の盛衰も握っている。半導体は戦略物資そのものなのだ。
半導体のサプライチェーンを維持することは安危に関わる問題なのだ。1980年代、安全保障を賭けて日本の半導体産業を切り崩したように、アメリカは今や中国企業を敵視している。槍玉にあがったのは華為技術(ファーウェイ)であり、中興通訊(ZTE)である。
半導体をめぐる国家の攻防は、日米から米中に移行する歴史を歩みつつ、韓国、台湾、シンガポールという重要なプレイヤーをめぐり目まぐるしく様相を変えている。
次の25年、日本の半導体産業の復権がありうるとすれば、政治力を問われる経済安全保障の問題として明確に論点にすることからしか始まらないだろう。