AIが加速する宇宙データの活用
第4回 衛星データとAIが進める予知保全社会

AIと衛星データの融合により、インフラや設備の異常を事前に察知する「予知保全」が現実のものに。センサ設置コストの削減や、ダウンタイムの最小化を実現する新たな保全の形が、いま社会全体の課題解決に向けて加速している。
目次
インフラメンテナンスの省力化に衛星データやAI分析は不可欠
「宇宙水道局」では、上水道の水道管検知に続き、下水道の重要度診断サービスを開始するとしている。下水道管は、水道管とは異なるリスク予測モデルが必要となるため、気水道管の破損リスク予測は今後の拡充となるが、平次と災害時、両方の観点から下水道の重要度を数値化し、対策、点検の優先度を明確にするというものだ。上水道における重要度診断と相互に連携させることで、上下水道の一体的な診断も可能となる。
埼玉県八潮市の下水道管の老朽化による道路陥没事故は記憶に新しい。事故後の対応、被害の拡大を見ても、事後の対応は影響範囲も、コストも大幅に必要となる。メンテナンスコストの最適化のためにも、事前の破損リスク予測、保守、交換の重要性が再確認されたといえよう。
日本において、上下水道(公共水道)は市町村が整備、管理することになっているが、予算の問題で隣接自治体との統合運用を模索する動きや、都道府県単位での維持管理の補完、移行も検討され始めている。音聴調査のスタッフや配管の工事を行うスタッフの人員確保という意味では、もはや予算の問題ではないレベルまで来てしまっている可能性もあるので、従来の方法以外の省力化も求められる。衛星データやAIのデータ分析が活かされる場面といえよう。

衛星データとAIによって加速する予知保全
上下水道などの社会インフラに限らず、工場などの機械や設備の保全にAIが導入されつつある。従来のメンテナンスは、計画的、定期的に部品を交換し、未然に故障、破損を防ぐ「予防保全」という手法で行われていた。交換するレベルまで劣化していなくとも予防の観点から交換するため、まだ使えるにも関わらず交換することになるため、コストパフォーマンスの面で課題があった。
現在は、AIやIoTで設備の状況を常に監視し、故障、破損の兆候が認められたら対処する、稼働状況、過去の故障傾向からトラブル発生の時期を予想して対処するなどの「予知保全」のアプローチが導入されつつある。故障してから修理、交換対応する事後保全はもとより、予防保全と比較しても、大規模なダウンタイム(メンテナンス期間)を減らせることでの生産性向上も見込まれている。
予知保全のためには、機器や設備の状態を計測するセンサなどのデバイスが必要となる。先述のAI/機械学習を用いてインフラの劣化状況を予測するソリューションも、振動データや水圧などの計測データなどが予測モデルに用いられる。予知保全を前提とした設備はセンサ類を事前に設置したり、そもそも予知保全に必要なデータが取得できるデバイスを内包している場合もあるが、従来の設備には後付けで温度センサや振動センサなどのIoT機器を設置しなければならない場合もあり、導入費用や計測機器のメンテナス、健全度のチェックなどのコストも必要となる。
その観点で衛星データなどの宇宙データを活用することは、予知保全のためのコストを大幅に減らすことが見込まれる。もちろん、衛星データでは対応できない設備や機械などはあるだろうが、衛星データも活用することで、設置するIoTデバイスなどを最小限にすることは可能だ。
社会インフラの保守、保全は、日本だけでなく全世界的な課題となっている。人手不足が課題の国や地域もあれば、管路情報など存在しない、破棄されてしまっているなど情報の不足、不完全な事例もある。また、予算の問題はどの国や地域でも課題だ。
衛星データは、高高度から地表面の状態を観察、データ取得できるが、上空からの2次元的なデータかつ、解像度の問題など取得データに制約がある。また、膨大なデータであるがゆえにその分析にリソースが消費される課題もあった。しかし、AIによる分析能力の向上や、地上データとの総合的な分析などによって相互補完、相乗効果も得られるようになってきた。
今は水道管の保全などへの活用などが進められているが、今後、より精度が求められる場面への応用も進む可能性がある。衛星データの解像度とAIの分析能力の向上に期待が集まる。