AIが加速する宇宙データの活用
第1回 宇宙データとはなにか?

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テキスト 戸津 弘貴
デジタルガジェット情報サイト「iPod Style」および、防災系情報サイト「防災スタイル」の運営を手がける傍ら、ガジェットや最新テクノロジー、スタートアップなど幅広いジャンルをカバーするフリーランスのライター、ジャーナリストとして活動。

かつて国家主導だった宇宙開発は、今や民間企業による多様なビジネスが広がりを見せている。ロケットや衛星の開発にとどまらず、データ解析やサービス提供など新たな宇宙スタートアップが続々と誕生している。

目次

さまざまな分野で宇宙スタートアップが誕生

宇宙開発といえば、かつては国家や政府の手によって主導されていたが、近年その情勢は大きく変わりつつある。スペースX1に代表されるように、民間企業でもロケットの打ち上げや衛星開発などが行われ、ニュースにもなっている。日本においても、スペースワン株式会社をはじめ4社2がロケット打ち上げに名乗りを上げ、開発を進めている。

民間企業の宇宙開発は、ロケット打ち上げに限らない。たとえば、民間資金の活用や、中小企業やベンチャー企業による衛星開発、宇宙ロボットや宇宙飛行のための機器やサービスの開発など拡がりがみられる。最近では技術開発などいわゆる「宇宙テック」にとどまらず、Space BD株式会社などテクノロジー以外の領域で起業するスタートアップも出てきており、裾野の広がりを感じる。

さらに、宇宙ビジネスは宇宙空間の枠を超えて広がりを見せる。近年、増えているのは宇宙データの活用だ。株式会社Solafuneは、衛星や地理空間データを活用し、宇宙技術のない国々へ解析したデータの提供を行なっている。同社で購入した衛星データを元に、課題解決のためのコンテストを開催。上位者のソースコードを買い取って自社ソリューションとしてソフトウェア、APIなどとして提供するものだ。例えば、コンゴ共和国においては「鉱物資源のモニタリングと違法採掘の検出」を目的としたデータ解析サービスを提供した実績があるという。宇宙技術のない国は、信頼できる国からの技術、情報を求めており、日本はその観点からも支持を得ている。日本にとっても鉱物資源の確保という利益に繋がる重要なソリューションとして位置付けられるものだ。

多岐にわたる宇宙データの種類

宇宙データというと、衛星画像や合成開口レーダ(SAR)、標高データなどがある。最近では、地表面温度データなども取得できる衛星も出てきているという。衛星データというと、気象衛星や衛星写真など、光学画像データを思い浮かべる人も多いが、その内容は多岐にわたる。GPSなども宇宙データの一つとすることもある。

光学画像データ

光学センサは、太陽光を反射した対象物の可視光画像、いわゆる肉眼で見える画像から地表面の情報を得るものだ。光学センサが捉えるデータは色彩豊かで見た目に理解しやすく、物体が波長ごとに反射する光の強さの特徴から物質を識別することも可能。植物、水、砂などはそれぞれ異なる反射の強さを持ち、さらには植物の種類まで見分けることができる。

光学画像データは、地図の作成、土地の利活用状況の把握などのほか、商業施設の混雑度の可視化など多岐にわたり利用されている。

また、光学センサに搭載された分光器は、地表で反射された太陽光を測定し、CO2など特定の物質の成分を測定することも可能なうえ、植物の活性度を表わす近赤外線(NIR)を用いて農地の管理、植物の生育状況の可視化などにも応用されている。

合成開口レーダ(SAR)

合成開口レーダー(SAR)は、マイクロ波を発射し、地表で反射したマイクロ波を捉えるセンサによって地表の観測を可能にする。電波を発し反射を観測するため、雲や太陽光の影響を受けず、昼夜問わず一貫した撮影条件が保たれる特性がある。コンクリートの建物などは電波を多く反射し白っぽく写り、海は電波が跳ね返らず黒く見えるなど地形や地表面の状態で変化するため、白〜黒の濃淡で地形や地物を判別できる。

日本においては、国土地理院が運用している「だいち」シリーズなどがそれにあたる。観測周波数や偏波を活用することで、木の葉や枝を通過して地面の様子を観察したり、物体の特性による反射の違いから物体を識別することも可能だ。水田やビニールハウス、ハスの畑などはそれぞれ異なる偏波特性を持つため、見え方が異なる。SARセンサは、昼夜を問わず監視が必要なインフラや海洋の監視、地盤の沈下や隆起の検出などに用いられている。

赤外線センサデータ(地表面温度など)

地表面の物体自身が発する赤外線を観測することで、表面温度を知ることができる。地表面の温度データを収集することで、灌漑の最適化や干ばつ予測、収量予測などの課題解決に役立つことが期待される。また、他の波長のスペクトルと併せて物質の判定や植物の生育状況の判定にも活用される。

マイクロ波センサ

マイクロ波センサではマイクロ波を受動的に観測することで、気温分布や大気中の気体の吸収特性、水および氷粒子の吸収・散乱特性などを観測することが可能だ。大気中の雨や雲などの降水粒子に反射する波長のマイクロ波を用いることで、大気中の雨や雲の様子も計測できとしている。

LiDAR(Light Detection and Ranging)センサ

LiDARはSARと同様な原理で、マイクロ波ではなく可視光(レーザー光)を主に使用するセンサ。レーザーの反射により、大気中の粒子の濃度を測定したり、ドップラー効果を利用することで大気中の粒子の動き、すなわち風速を知ることも可能だ。LiDARは鉛直方向の情報も含めた雲やエアロゾルの構造解析や、地表の構造物の3次元データ取得、気流の分析などに主に用いられる。

運行データ(航空機・船舶などの位置情報)

海上を航行する一定の基準を満たす船は、衝突防止などの観点から、常に決められた電波を発信し、周囲に自身の位置情報や速度情報を知らせることが義務付けられている(Automatic Identification System:AIS)。また、航空機も船舶と同様に自分の位置や速度、飛行高度などを常に周囲に発信している(Automatic Dependent Surveillance–Broadcast:ADS-B)。これらのデータは公開されており、その情報を元に船舶や航空機の動きをリアルタイムで把握することが可能だ。