自動運転は社会をどのように変えるのか?
第1回 自動運転開発のグローバル・レース

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寄稿者 吉田メグミ
フリーライター。パソコン誌などの紙媒体、企業オウンドメディアや WEB マガジンなどの WEB 媒体での記事作成を広く手がける。Autodesk Design&Make編集・執筆・海外記事のローカライズ担当。ココカラ編集室代表。

2023年4月、レベル4の自動運転(特定の条件下でドライバー不在でも運行可能)が解禁されたことで、日本でも無人の自動運転車の実用化が視野に入るようになった。自動運転技術の進化は、私たちの社会に大きな変革をもたらそうとしている。交通事故の削減、渋滞の解消、労働力不足の解決、さらには移動の自由の確保や環境負荷の低減といった課題に対し、自動運転はどのような役割を果たし、社会をどのように変えていくのだろうか。

目次

自動運転実用化をリードする:中国の現状

中国では、自動運転技術の開発と実用化が急速に進んでいる。2025年内にも自動運転タクシーやバスの営業運転が開始される見込みであり、30社以上の企業が実証実験を行っている。
すでに百度(Baidu)の「Apollo Go」は、北京市や上海市などで商用サービスを開始し、完全無人のタクシーサービスを提供している。
また、Pony.aiは2025年までに自律走行車両の数を250台から1,000台以上に増やす計画を発表しており、技術の進歩により生産コストの大幅な削減と主要都市でのサービスエリア拡大を見込んでいる。

中国政府は、自動運転技術の発展を支援するための政策を推進しており、これにより企業の研究開発や実証実験が加速している。
さらに、電気自動車(EV)の普及が進んでいる中国では、EVエコシステムの成熟度が高く、自動運転技術の導入が容易になっている。
無人タクシーの普及に伴い、交通ルールの遵守や安全性の確保、法整備の遅れなどが指摘されてはいるが、自動運転技術の実用化において世界をリードしている。

完全自動運転を推すテック系と慎重な自動車メーカー:アメリカの現状

アメリカでは、AIやセンサー開発のベンチャー企業であるテスラやアルファベット傘下のウェイモなどが自動運転技術の開発をリードしている。

Google系のWaymoはAIやLiDAR技術を活用し、完全自動運転(レベル4・5)を目指し、フェニックスやサンフランシスコなどで無人タクシーの運行を実施するなど、すでに商業運用を開始している。
2024年12月には、初めて日本での公道テストを東京で実施することを発表した。

テスラはオートパイロットを搭載したテスラ車が駐車中の緊急車両に衝突する事故を受け、2021年8月より米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)から調査が入ったり、2022年6月には約83万台のテスラ車を対象とした強化調査により、16件の関連事故が特定されるなど、自動運転技術の安全性に対する疑念もあったが、近年ではカリフォルニア州での自動運転技術のテスト体制を強化しており、2024年12月時点で、テストドライバーの数を59人から224人に、テスト車両を14台から104台に増加させた。
これは、年内にロボタクシーサービスを開始するという目標に向けた取り組みの一環だ。

また、2025年3月17日、テスラは中国市場において、完全自動運転(FSD)サービスの無料トライアルを開始。このトライアルは、対応するハードウェアとソフトウェアを備えたユーザーを対象に、3月17日から4月16日まで実施される。
FSDは、生成的人工知能を統合し、複雑な交通状況にも対応できるよう設計されている。
2025年内にFSDを完全展開することを目指しており、中国の大手テクノロジー企業である百度(Baidu)と協力して、システムの性能向上に取り組むという。
しかし、中国のEVメーカーはすでに高度な運転支援システムを標準装備しているため、競争の激しい市場でいかに差別化を図るかが重要になってくるだろう。

一方で、伝統的な自動車メーカーは、運転支援システム(ADAS)の強化を重視し、完全自動運転には慎重な姿勢を取っている。

GMの子会社Cruiseは、サンフランシスコやオースティンで無人タクシーの試験運用を行っていたが、2023年末に事故を受けて規制当局から一部運行停止命令を受けた。
GMはこの事故を受けて慎重な対応にシフトしつつあり、自動運転機能を搭載した「Super Cruise」や「Ultra Cruise」などのADAS(高度運転支援システム)を提供しているが、完全自動運転には至っていない。

フォードは以前、自動運転技術を開発する「Argo AI」に投資していたが、2022年にプロジェクトを終了し、レベル3未満の運転支援技術(ADAS)に注力する方針に転換。
メルセデスベンツUSAは2023年に、アメリカのカリフォルニア州とネバダ州でレベル3の自動運転技術「Drive Pilot」の認可を取得した。これは一般道ではなく、高速道路の特定条件下での運用に限られるものだ。

安全な自動運転車の開発で着実な実用化を目指す:日本の現状

一方、日本では産業の基幹である日本車メーカー各社が自動運転車の開発に積極的に取り組んでいる。

トヨタはすでに自動運転技術を活用した「e-Palette」を開発し、東京オリンピック・パラリンピックでも使用した実績がある。
「Woven City」では自動運転技術のさらなる進化を目指し、実証実験を継続している。特に、高齢者向けの自動運転モビリティの開発に力を入れており、2026年には都市部での商用サービス開始を計画している。
また、2025年1月に開催されたCES 2025では、NVIDIAとの次世代自動運転技術に関する包括的な提携を発表。この協力は、日本だけでなく、世界の自動車産業における大きな変革をもたらす可能性もある。

日産自動車は、神奈川県横浜市の一般道で無人運転車のテストを実施。
同社の自動運転バンは、カメラ、レーダー、LiDARセンサーを活用し、ドライバーなしで市街地を走行する。この取り組みは、日本の人口減少やドライバー不足といった社会課題への対応を目指しており、2024年には横浜市内の一部エリアで無人タクシーの試験運用を開始した。
さらに、2025年には商業施設やオフィス街での実用化を見据えた実証実験を進める予定だ。

ホンダは、2021年3月に世界初のレベル3自動運転技術を搭載した「新型レジェンド」を限定リース販売した。
この車両は、高速道路の渋滞時において、システムが運転を引き継ぐ「トラフィックジャムパイロット」を搭載している。
その後、2023年には「トラフィックジャムパイロット」の適用範囲を拡大し、高速道路の合流や車線変更の自動化を進めた。
現在、ホンダは新たな自動運転技術を開発中で、2030年までにレベル4の自動運転車を商用化することを目指している。

スバルは、自社の先進運転支援システム「アイサイトX」を搭載した車両を市場に投入している。
このシステムは、高度な運転支援機能を提供し、安全性の向上に寄与している。
特に、2024年に発表された最新型「アイサイトX」では、自動車専用道路でのハンズオフ運転(一定条件下での手放し運転)や、交差点での自動減速機能が強化された。
さらに、スバルは2025年までにレベル3の自動運転技術を導入した新型車両を投入する計画を発表しており、北米市場での展開も視野に入れている。