生成AIでビジネスが激変する
週刊ダイヤモンド編集委員が語るChatGPTとの付き合い方
生成AIの爆発的な台頭により、あらゆるビジネスにおいてAI化が進行し、生成AIは確実にAIと人間との付き合い方を次の段階へ進めた。この25年間、雑誌メディアからWebメディアに活躍の場を移しつつ、ITの社会への浸透を取材してきた吉岡綾乃氏の講演録をお届けする。生成AIはビジネスをどう変えていくのか、そして私たちはどう付き合うべきか。
吉岡 綾乃(よしおか あやの)
慶應義塾大学大学院文学研究科東洋史学専攻修了。ソフトバンク株式会社に新卒入社、出版事業部にてPC雑誌の編集に携わる。2004年、アイティメディアに入社。「ITmedia +D Mobile」編集部で記者としてキャリアを積んだ後、「ITmedia ビジネスモバイル」「Business Media 誠」「ITmediaビジネスオンライン」を立ち上げ、編集長を務める。プレジデント社に転職、「プレジデントオンライン」の副編集長を務めた後、2019年にダイヤモンド社に入社。2021年にダイヤモンド編集部へ異動、編集委員。Twitterのアカウントは、@YoshiokaAyano。
目次
- この25年間にIT業界で起こったこと
- 生成AIの一般利用はインターネットの登場と同等のインパクト
- 生成AIとは何か?
- ChatGPTとは何か
- ChatGPTと人間はどこが違うのか
- ChatGPTが得意なこと
- ChatGPTのリスクと課題
- ChatGPTはどんな人に向いているのか
- 未来のビジネス環境とChatGPT
この25年間にIT業界で起こったこと
この25年間にIT業界で何が起こったのか、ITが社会をどう変えてきたのか、私自身のキャリアを振り返りながら辿ってみようと思います。
私は1998年にソフトバンクに入社して「DOS/V magazine」というパソコン雑誌の編集部に配属になりました。ちょうどWindows 98が日本で発売になった年で、パソコンが広く一般に普及しました。翌年にはiモードサービスがスタートして、携帯電話からインターネットにつながるという画期的な出来事がありました。2000年問題を経て、2001年にはフレッツADSLやYahoo!BBの事業がスタート、2003年には光回線が登場して、今では当たり前になっているインターネットの常時接続が実現しました。2004年にはmixiが登場して日本でもSNSがだんだんと普及していきます。
この頃になると、出版業界で雑誌が売れないという傾向が出始めました。雑誌を買わなくても、ネットで情報を集められるということで、まず最初にパソコン雑誌が売れなくなります。私も悩んだ末に2004年にソフトバンクグループ内のアイティメディア株式会社に転職することになり、「ITmediaモバイル」という携帯電話に関する情報を配信している媒体の記者に転身しました。
当時の携帯電話業界は変化が大きく、新しいトレンドやサービスがどんどん出てくる、非常にエキサイティングな業界でした。2008年にはiPhoneが日本でも発売され、Facebook、Twitterの日本語版がスタート。2009年 にはAndroid版のスマホが登場し、2011年に LINEのサービスが始まりましたから、この時点で今に至るネット社会、SNS社会が出来上がったのがわかります。
- 1998: Windows98 日本で発売開始
- 1999: 携帯電話のインターネット接続サービス始まる(iモード)
- 2001: フレッツADSL、Yahoo!BBなどADSL事業スタート
- 2003: 家庭向け光通信登場
- 2004: mixiサービス開始(日本のSNSの走り)
- 2006: iPhone2本発売、Facebook、Twitter日本語版スタート
- 2008: iPhone日本発売、Facebook、Twitter日本語版スタート
- 2009: Androidスマホ登場
- 2011: LINEサービス開始
- 2023: ChatGPTに代表される生成AIが一般利用可能に
生成AIの一般利用はインターネットの登場と同等のインパクト
に、ネットメディアのマネタイズの経験者ということでお声がけしていただき、ダイヤモンド社に転職しました。私が2004年ごろに直面したパソコン雑誌が売れないという問題が、一般の雑誌も波及してきたのですね。今は主にダイヤモンド・オンラインでネットの記事を編集しています。かつては紙(週刊ダイヤモンド)で掲載された特集記事を後からダイヤモンド・オンラインで配信していたのですが、現在は、まずネットに載せてから紙に掲載する、または同時並行で行うというようにデジタルファーストに変わってきています。
ダイヤモンド・オンラインがどうやってマネタイズしているかというと、2019年から「ダイヤモンド・プレミアム」というサブスクリプションで記事が読めるというサービスを導入しており、無料記事、会員向け無料記事、プレミアム(有料記事)の3本立てで運営しています。私は主に無料記事を担当しているのですが、今年の6月に週刊ダイヤモンドで「ChatGPT完全攻略」という特集記事を組むことになり、久しぶりに紙の編集に携わりました。これがたいへん売れまして、過去5年間で一番売れ行きの良い号になりました。ChatGPTが「週刊ダイヤモンド」を購読している層にも興味のあるテーマだということで、第2弾としてこの9月に「ChatGPTプロンプト100選」という特集を組んでいます。
この25年を概観すると、大きな波がいくつかあったことがわかります。
- :インターネットの登場(パソコンとインターネットの普及、常時接続化)
- :スマートフォンの登場と普及(手のひらでインターネット、いつでもどこでもインターネットが利用できる)
- :ChatGPTに代表される生成AIが一般利用可能に
これは上記のインターネットやスマートフォンの普及と同等以上の大きな変化であり、社会に影響を及ぼすムーブメントであると思っています。

生成AIとは何か?
生成AIとは、「プロンプト」と呼ばれる文章の入力をもとに新しいコンテンツを“生成”するAIのことを指します。文章や画像、音楽、動画などを、プロンプトを書くだけでつくりだすことができます。生成AIにより、多くのクリエイティブなタスクが自動化可能になりました。生成AIはいくつかありますが、代表的なものとしてテキスト生成AIのChatGPT(OpenAI)やBard(Google)、 画像生成AIのMidjourneyやStableDiffusion、Adobe Firefly、音楽生成AIのSOUNDRAWやJukeboxなどが有名です。
プロンプトさえ入力すれば、その能力がなくても文章が書け、絵が描け、動画や音楽を作ることができます。日本語のプロンプトから、外国語の文章が出てくる。モデルがいなくてもカメラがなくても、カメラマンが撮影した美女の画像をつくりだすこともできます。写真風でもイラスト風でもお好み次第です。作成した画像や音楽は自由に使うことができるとしているサービスも多いです。
現在、チラシやポスターを作成するときにネット上のフリー素材のイラストを使っている人は多いのですが、その素材が好きだから使っているというよりは、無料だから使っている人が多いのではないでしょうか。しかし、自分でプロンプトを書くだけで、一瞬のうちにイラストが出来あがり、しかも著作権は自分のものなので自由に使うことができる、仕事にも生かせるとなれば、状況は変わってくるでしょう。
ChatGPTとは何か
ChatGPT とはOpenAIが開発した、自然言語処理技術を活用したテキスト生成AIのことで、「GPT」は「Generative Pre-trained Transformer」の略です。 このGPTと自然文でチャットのように双方向でやりとりできる仕組みが「ChatGPT」です。一般的な質問応答だけでなく、物語生成や具体的なタスクの提案、多言語間の翻訳など、多岐にわたる作業を行うことができます。さらにプラグインを入れることで、人が音声で話しかけると音声で返すといった使い方、つまりChatGPTと話すことも可能になります。基本的には、人間が日常的に使うテキストベースのコミュニケーションツールとしての役割を果たしています。
ChatGPTは突然出てきたわけではなくて、人が書いたり話したりする言葉をコンピュータに理解させる技術である自然言語処理の研究の延長線上に出てきたものです。自然言語処理の大規模なAIモデルをLLM(Large Language Model=大規模言語モデル)と呼んでいますが、GPTはそのうちの一つです。では、GPTが何をしているのかというと、非常に単純化して言うと、「文章のなかで次に現れるべき言葉を確率的に予測している」と思ってください。GPTやBERTなどの言語モデルの訓練では、まず事前学習を行なって言語モデルとして成熟させます。この段階では、次の言葉の予測ができるようになっています。その後の段階としてファインチューニングを行います。そこでは言語モデルのニューラルネットワークのパラメータに微調整を加えながら特定のタスクにモデルを適応させる学習を行います。事前学習にはたくさんの文章を必要としますので、GPTはWebなどから大量のテキストを事前学習しているわけです。