量子コンピューターを理解するための量子力学入門
第4回 量子コンピューターはパラレルワールドを使っている?──多世界解釈と観測問題

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テキスト 松下 安武
科学ライター・編集者。大学では応用物理学を専攻。20年以上にわたり、科学全般について取材してきた。特に興味のある分野は物理学、宇宙、生命の起源、意識など。

解釈論争は実用に影響しない

Shut up and calculate!

量子力学は誕生から100年ほどの歴史がある。また、パソコンやスマホなどのIT機器に使われる半導体の性質は、量子力学に基づいて理解されており、量子力学は現代社会を支えていると言っても過言ではない。そんな量子力学に複数の解釈がある、と聞いて驚かれた読者の方もいるかもしれない。今回紹介した解釈以外にも多数の解釈があり、哲学者をも巻き込んで、今も議論が続いているのだ。

ただし、量子力学に複数の解釈があるといっても、研究者が使っている方程式などの数式は、基本的には同じだ。それらの数式が何を意味するのかについての解釈が、研究者によって異なっているのである。そのため、支持する解釈が異なっていても、問題の解き方は基本的には同じであり、実用的な面では量子力学に複数の解釈があっても別に困ることはない。

また、数式上は基本的に同じなので、どの解釈が正しいのかを実験によって検証することは難しい。そのため、量子力学の解釈は物理学の問題ではなく、哲学の問題だと考える人も多い。研究者人生をかけても答えが出ない可能性が高い、量子力学の解釈の問題には深入りすべきではないという意見も根強く、量子力学を学ぶ際の心構えとして、「Shut up and calculate!(黙って計算せよ!)」といったフレーズもよく使われる。実際、そのような姿勢の研究者が多かったからこそ、半導体をはじめとする量子力学のテクノロジーへの応用が急速に進んだのだとも言えるだろう。

自身がどのような解釈を支持しているのかを明確に主張する研究者は、特に日本ではそれほど多くない。シュレーディンガーの猫やウィグナーの友人の思考実験において、どの段階で、どのようにして状態の収縮が起きるのか、その説明の仕方は研究者によって異なる可能性があるのだ。

最終回の次回は、量子力学の解釈についての論争から生まれた概念「量子もつれ」(量子絡み合い、量子エンタングルメントなどとも呼ばれる)について紹介する。量子もつれは、量子コンピュターの高速計算にも関わる、量子情報技術の要の1つとなっている概念である。

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