常盤木龍治の地方DX快刀乱麻vol.001ーー地域地方が存続する道は本当にDXである必要はあるのか

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テキスト 常盤木 龍治

 

DXの遅れが日本社会が抱える官民共通の課題であることは間違いない。地方創生のカギを握るとも言われるDXを、では、いったい誰がどのように進めればよいのか。今月から、沖縄を拠点に日本全国でDX人材育成の講師を務めるエバンジェリスト常盤木龍治氏の連載をスタートする。地方が抱える課題とは何か、その解決に向けてどんな動きが始まっているのか、地方DXの伴走者である常盤木氏から毎月レポートしていただく。

 

 

 

地域地方が存続する道は本当にDXである必要はあるのか

 

 

デジタル庁の設立、日本中の企業や自治体、どこもかしこも聴こえてくるのは『DX(ディーエックス、デジタルトランスフォーメーション)』という掛け声である。だがしかし、DXとIT化や効率化の違いをビール片手に3分程度で簡潔に語れる方が果たしてどの程度いるであろうか。さらにいうなら、DXの”X”が何を指し示しているのかを勇気を持って言語化しているプレイヤーがどの程度いるであろうか。

そもそも、地域地方で飲食店や小売業などサービス業を営んでいるような方にとってDXなにそれ美味しいの?な状況の中、地域地方に寄り添えるものになりうるのであろうか。多くの方々が実は納得しきれていない中、特にIT産業に従事する方々の多くが、『DX』をAIやIoT等と同じように、営業的バズワード程度のなにか程度にしか捉えていないのが実態ではないだろうか。

様々なアンケートや調査で、『DXが必要』と捉えている企業が過半数をこえているというデータがでてくるが、DXとデジタル化とITによる効率化の違いを説いている関係者はどの程度いるだろうか。

有り難い事に、今回、”常盤木龍治の地方DX快刀乱麻”と題して、気鋭のメディア『IT批評』に連載を持たせていただくことになった。

様々なメディアでも取り上げていただいている『来客予測AI』『TouchPointBI』を実現した伊勢ゑびや大食堂/EBILABに端を発する地域地方のサービス産業の笑顔を支えるDXを標榜し、日本中の様々な規模の企業や自治体でDXを泥臭く粘り強く実践/推進させていただいてきた経験と実績をもとに、地域地方におけるDXの実情と展望について事実と考察を交えながら発信していく。

快刀、乱麻を断つ。DXそのものへの取り組みやスタンスで悩む同志達の迷いを晴らす道標になれば幸いである。

 

 

IT化や業務改善とDXの混同にみるミスリードの裏側にあるもの

 

紙とペンから計算機、ホストコンピュータ、クライアントサーバー、インターネット、クラウドコンピューティング、ITの分野はその名の通り”情報技術”に他ならず、人が社会で共存するにあたり、情報を共有する効率を大きくひきあげ、経済規模を拡大するのに役に立ってきた。それは誰も否定しないだろう。だがしかし、それらの手法も部品化され、他者が利用できるようになるまでの先行者利益を得られる期間が、GAFAもといGAMAをはじめとした圧倒的先行者を除き、どんどん短くなってきている。

日本におけるIT部門の歴史は、給与計算や振込金額等企業間取引における”お金”のやりとりをよりシームレスに発展させる為に突き進んできたといっても過言ではない。比較的規模のある組織には電算室があり、それが情報処理部門、情報システム部門と段階を踏んで、ただ運用するだけでなくシステムを開発する機能が実装され、それにあわせSIer(システムインテグレーター)が大きく存在力を発揮し、データセンタービジネスや回線ビジネスと共に、各社の差別化の源泉としての”各社ごとの強みを活かす個別システム開発”、いわゆる受託開発の領域で規模を活かす闘い方で発展してきた。そして、見積算出根拠として、一人あたりいくら、それをベースに金額を見積もる”人月””人日”という概念が極めてポピュラーに運用されてきた。
経済が強靭で成長基盤にのっている際は、実は何も問題がなかった。むしろITのプロフェッショナル集団であるSIerの力は製造業、金融業、サービス業等あらゆる産業の成長を下支えする縁の下の力持ちとして大きな尊敬を集めていた時期すらあった。

だがしかし、先進国の中で最も成長速度の鈍い国の一つとなった今日の日本においては、決められたものを決められた納期につくっていく従来のシステムインテグレーションのモデルでは世界中で大きく加速してきたクラウドコンピューティングの速度感やスケール感に、そしてなによりユーザーのビジネスモデルの変化の速さについていけなくなり、人月レベルでの見積を受容できるだけの体力の企業も減ったのと同時に、圧倒的スピードやコスト感でソフトウェアサービスという既製服をネット経由、クラウドで提供しているいわゆるソフトウェア・アズ・ア・サービス、いわゆるSaaS(サース)がこの10年ほどで極めて一般的な選択肢として爆発的に普及した。

従来のように期間安定収支がとてもわかり易く得られる人月、稼働率を軸としたビジネスモデルから、プロダクトの品質とそれに対する信頼からのロングテールでお客様から継続的収益が臨めるクラウド/SaaSを活用したビジネスモデルや、SaaSで提供される極めて簡単にプログラム未経験者や初心者でも開発できるプラットフォーム・アズ・ア・サービス(PaaS)を主軸とした、SIerに頼るのではない自前主義、自走主義での開発環境を持つ企業が増えていった。Microsoft社のAzure PowerApp、サイボウズ社のkintone、Salesforce社のHerokuなどがそうだ。

かつてのLotusNotesや、Excelのお化けマクロよりも遥かに短期間低コストでIT企業ではなくユーザー企業自身による自前開発がプログラム非経験者でもできるようになってくると、もはや各企業におけるIT化/デジタル化による業務効率の改善や強化は差別化というよりは最低限の競争力維持の為の手段になってきてしまった。今よく話題にあがるRPA等も、短期的な局地的課題解決には適しているが、ビジネスロジックや業務オペレーションが変わる都度、もともとそのRPAのシナリオを理解していた人間がその手順を再度撮りなおしたりする手間が実は高く、効率化や競争力強化を長い時間軸でみた場合、効果が限定的である場合が残念ながら多い。

少し話が脱線したが、例えば各個人が車を持つのではなく地域社会で共通リソースとして持つカーシェアがより普及すれば渋滞の問題は大きく解消するし、転職という概念がなくなり各位が入札と相性に近い形で好きな仕事を複数こなしていくパラレルキャリア化が進めば、労働人口の問題が解決する可能性だってある。さらにそれぞれのリソース活用に対し対価を払う人や方法や階層がかわりお客様から対価をもらうポイント(キャッシュポイント)が変わってくればその地域での税収が足りていないから社会課題が解決されない、といった問題すら解決する可能性がある。

つまり、この変革、トランスフォーメーションこそがDXの”X”なのであり、個別の業務、個別の組織、個別の地域の改革は本質的には”X”とは程遠い単なる業務改善や部分最適化でしかないケースが残念ながらほとんどである。

だがしかし、なかなか大きな動きがないコロナ禍以降のシビアな経済情勢において、地域社会や各企業は生き残りをかけるにはどうやらこの『DX』ってやつに挑まなければならないというのは様々な著名な発信者が言い続けているからこそ、このムーブメントにのっかり現状の手法をちょっとだけ新しく見せて”弊社はDX事業を支援する仕組みやソフトウェアを提供しています”と”X”の意味を自らが網羅できていないし考察もしていないのにこの世の中のビックウェーブにのることでそのリソースや製品を売るためにDX、DXと乱用しているIT関連企業が多いのが実態だ。

飲食小売業にサービス提供するのにホールスタッフをやったこともなければ厨房にたったこともなければ洗い場にすらたったことがない。店舗も経営したことがないのに”DXを実現する店舗ITソリューション”と名乗っているような企業が残念ながら多くいる。

そのミスリードが消えていくためにどうしたらよいのか、地域地方でDXを実践しうる存在を発掘し育てるためにはどんな事をしていけばよいのか、次回以降より深く切り込んでいく。

 

 

常盤木龍治(トキワギ リュウジ)

No.1シェア請負人。パラレルキャリアエバンジェリスト/プロダクトデザイナー/DXスペシャリストとして“差別化要素をもち市場提供価値/社会的意義が明確にある仕事のみ”を軸とし活動中。EBILAB、クアンド、LiLz、岡野バルブ製造等さまざまな企業の最高戦略責任者/最高技術責任者/社外取締役/エバンジェリスト/事業戦略アドバイザー等を務める。沖縄県/石川県/鳥取県/福岡県北九州市/香川県三豊市等でDX人材育成の講師を務める。

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