ロボティクスが支える肉体労働の未来
第4回 ロボットとヒトの境界線

人類は長い間、過酷な労働に従事してきたが、現代の技術革新により、その負担は大きく軽減されつつある。装着型ロボットや協働ロボット(コボット)の導入が進み、肉体的負担の大きい作業をサポートすることで、労働環境の改善が加速している。特に介護や建設業界では、安全性と作業効率の向上が期待されている。一方で、法的整備や安全対策の課題もあり、ロボットと人間が共存する未来に向けた適切なルール作りが求められている。
吉田メグミ
フリーライター。パソコン誌などの紙媒体、企業オウンドメディアや WEB マガジンなどの WEB 媒体での記事作成を広く手がける。Autodesk Design&Make編集・執筆・海外記事のローカライズ担当。ココカラ編集室代表。
目次
過酷な労働からの解放
例えば、古代エジプト時代のピラミッド建設において、膨大な数の労働者が、時に命を落としながら重い石材を人海戦術で運んでいたことはよく知られている。また、1900年代初頭の炭鉱では、大勢の労働者が土を掘り、炭を手作業で運び出すという過酷な作業に従事し、粉塵や低酸素環境にさらされる中で、健康を害し、命を縮めることが日常的であった。そうした歴史的な例を通じて見えてくるのは、“肉体労働”がどれほど過酷で危険を伴うものであったかということだ。確かに、当時はこうした労動が多くの人々の“雇用”を産み生活を支えていたが、その労働が果たして本当に人間らしい生活を支えていたのか、という問いが浮かび上がる。こうした肉体労働は、雇用という形で存在していたものの、非人道的な労働環境によって労働者の生命の質(QOL)は著しく低下し、実質的には使い捨てのような存在となっていたとも言える。
労働者が生活のために働くことは不可欠であり、誰もが生きていくためには何らかの手段で生計を立てなければならない。しかし、問題はその労働が、生活の質(QOL)を下げるものであれば、その労働が果たして有益なものと言えるのかという点にある。過酷な環境で長時間働き続け、身体的・精神的な疲弊が積み重なった結果、労働者は心身ともに疲弊し、最終的には自らの生活が支えられなくなるのだ。仕事によって生きる意味や充実感を感じられないのであれば、それは人間としての尊厳を損なうことにもつながりかねない。
テクノロジーが発達した現代においては、人間らしい働き方や生きがいを提供することが、労働の目的であることは当然だ。過去のように人間が命を削りながら働く必要はなく、むしろ技術の力を借りて過酷な労働から解放されるべきであり、労働がヒトのQOLを下げるものであれば、その労働の方法や仕組み自体を根本的に見直す必要がある。社会全体が、労働者の健康や安全を守り、人間らしい生活を支えるためにロボティクスやAI技術を導入し、労働環境を改善する方向へと進んでいくのは当然のことだ。我々には、ロボットにはできない高次元の仕事がまだたくさん残されている。
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