過疎地の交通を支えるラストワンマイル・モビリティの可能性
第1回 未来都市と足元の危機

人口が減少・高齢化に向かい、地方が過疎化し、公共交通インフラが縮小の一途をたどる現在の日本では、ラストワンマイルの人的移動を担うスマートモビリティの普及は急務だ。マイクロモビリティライドシェアや自動運転、新たなモビリティソリューションの導入は、この社会的課題を解決することができるだろうか?
吉田メグミ
フリーライター。パソコン誌などの紙媒体、企業オウンドメディアや WEB マガジンなどの WEB 媒体での記事作成を広く手がける。Autodesk Design&Make編集・執筆・海外記事のローカライズ担当。ココカラ編集室代表。
目次
マイクロモビリティライドシェアはラストワンマイルモビリティとなるのか
2025年1月、米国ラスベガスで開催された「CES 2025」で、トヨタ自動車の豊田章男会長は静岡県裾野市のトヨタ自動車東日本工場跡地に建設が進む実験都市「Toyota Woven City」の第1期工事完了を報告。2025年秋以降から実証実験を開始すると発表した。「Toyota Woven City」には、Phase1エリアに約360名、Phase2以降も含めて将来的には約2,000名程度の居住者を予定しており、モビリティの実証実験としては世界でも異色の試みとなる。
日本企業がラストワンマイル・モビリティの実用化に積極的なのは、これまで培ってきた自動車産業先進国としての技術があるから、だけではない。日本のラストワンマイル交通は、刻々と危機的な状況になりつつあるからだ。
危機的な状況にある日本のラストワンマイル交通
いま、日本ではラストワンマイルの交通事情問題の深刻化が進んでいる。人口減少に伴い、ローカル鉄道やバスの運営は厳しさを増し、少し都心を離れただけでバスの時刻表はスカスカになっており、停留所や駅、ローカル線の廃止も進んでいる。JR北海道は2025年3月15日のダイヤ改正で5駅を廃止。2025年以降に廃止・廃止協議が予定されているローカル線は10路線に迫る。特に地方の過疎地では、路線バスの利用者数が減少したことから、停留所の廃止や路線の縮小が進み、全国各地で廃止されたバス停や縮小された路線、減便が加速している。
このような状況は、特に地方の高齢者や車を運転できない住民にとって深刻な問題だ。公共インフラの縮小は地域住民の移動手段をますます狭め、運転に不安が生じる健康状態になっても、生活必需品の買い物や通院などの日常的な移動手段が確保できなければ、生活のために自家用車を手放すことはさらに難しくなる。
ラストワンマイルに公共インフラが使えない生活の影響は、交通面での不便さだけには止まらない。自家用車のみの移動に限定されることで、駅やバス停周りの店舗は経営が難しくなり、ロードサイドなどの大〜中規模商業施設の利用が主流になる。近隣住民同士が顔を合わせる機会は減り、独居、あるいは高齢者世帯の孤立性は高まり、近隣地域のコミュニティの不活化を助長してしまうことで、体調不良や災害に見舞われた時の互助が困難になるといった弊害も出てくる。公共インフラがなくなった集落への道路は、整備が行き届かなくなり、住民はますます孤立していく。また、EVの充電ステーションが整備されない地区ではガソリン車に頼るしかないため、二酸化炭素排出量の削減が進めづらいなど、サステナビリティ面での問題もある。
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