想像と思考を拒絶する人工知能 その2
核爆発と知能爆発の背後にある時代

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テキスト 桐原 永叔
IT批評編集長

AIと核

1938年、オットー・ハーンとリーゼ・マイトナーが核分裂反応を発見したとき、その巨大なエネルギーの可能性に、多くの物理学者は「人類はついに太陽を手に入れた」と考えた。そして同時に、核分裂反応が想像を絶する破壊兵器に転用できるものだと考えたことも忘れてはいけない。まだ80年足らず以前の話なのだ。

核兵器開発を歯止めのないものしたのは、猜疑心であり恐怖だった。よくいわれるようにナチスでの原爆開発への恐れが、あの大規模なマンハッタン計画を実行させ成功させたのだ。冷戦時代、米ソそれぞれの陣営が、猜疑心と恐怖のために核開発のチキンレースからおりられなかったことも同様だろう。

近い将来、AI研究に携わる科学者たちは「人間は神の創造力を手にした」と喜ぶ日がくるかもしれない。人間と見分けのつかない、人間以外に定義しようのない人工生物が生まれるときは思っているほど遠くない。

しかし、核分裂反応の発見で手にした太陽が人を焼き尽くしたように、人間がつくりだした人工生物が“ヒト”ではなく、わたしたちの知能を疎外する“神”だったとき、もう後戻りは許されない時点に至っている。

再度、核分裂反応の発見から原子爆弾開発までの歴史をみれば、その発展はまさしく戦争の時代に支えられた。同様に現在、世界はまた諍いの時代、言い換えればテロの時代にある。敵への猜疑心であり恐怖が、AIを人類の手におえない問題に変えてしまう可能性の時代にあるのだ。

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