ウェブクルー青山浩社長の挑戦と哲学
「広告宣伝は、本当のことをわかりやすくお客様に伝えるだけでいい」

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構成・文 田所永世

ネットでも安心して買える魚屋を

「サイバラ水産」も、比較サイトにとどまらない新しい試みの一つだ。

「ネットにおけるイーコマース事業はまだはじまったばかりで、これから市場規模はどんどん広がっていきます。物流と決済の技術が進歩すれば、市場は海外にまで広がりますから。手遅れにならないうちに参入しようと、利ザヤの大きい商材を探したところ海産物に行き当たったんです」

青山社長によると、いわゆる海産物の浜値(漁師さんからの買い値)は、消費者価格の15%程度らしい。85%が輸送業者や小売店といった、中間業者のふところに入ってしまう。これが農産物になると、生産者の取り分は35%。海産物は生ものであるがゆえに、輸送コストがばかにならないのだ。

「サイバラ水産」だって例外ではない。現在のところ扱っている海産物は決して激安とはいえない。質のよいものだけを提供するというスタンスのせいもあるが、新参者がいきなり業界を改革できるほど世の中は甘くないのだ。現地で直接買いつけるにしても、既存の市場や漁協には筋を通して行儀よくやらないといけない。

だが、漁業関係者だって、決して現在の状況がいいとは思っていない。物流システムに対する不満が高まっていけば、近い将来、必ずなんらかの改革がある。そうなったときこそが、本格的なビジネスチャンスだ。そのために今から布石を打っているのだ。

今のところ「サイバラ水産」は「ネットの美味しい魚屋さん」の一つにすぎない。質の良い商品を提供して、ブランドイメージを高めることに注力している段階だ。

実はネットの魚屋は、消費者が自分の目で商品の現物を確認することができないがゆえに、質の悪い商品を売ろうと思えばいくらでもできてしまう。舌の肥えた消費者は二度と買わないかもしれないが、市場が広いゆえにリアルな店舗と違って客が減ることはない。よほどのことをしなければ悪評が広まることもない。

だが、そんな売り方は間違っていると青山社長は力説する。

「うちは不味いものは絶対出すなと言っています。工業製品じゃないんで、なかにはたまたまハズレが混じってしまうこともないとは言えませんが、お客様からクレームが来たらすぐに代替品を送るようにしています」

世の中に必要とされるビジネスである限り、自然と客はついてくるはずだという青山社長の信念が、その裏にはある。

ネットにおけるブランドの確立を

同社は単にネット上でさまざまなサービスを提供するだけではない。将来的にはすべてのサービスを統合して、楽天やヤフーのような誰もが知るブランドを打ち立てることを目指している。

その名も『ズバット』。すでに裏ではシステムの統合は終了し、今は表のプラットフォームをつくっている最中だ。

「たとえば、うちの引越し業者比較サイトを利用したお客様がいるとしましょう。するとその方の現住所がわかります。その近辺にうちがやっている火鍋のお店があれば、サービスを利用していただいたお礼にクーポン券を送るんです。毎月2万通送ると、そのうち200組が来店してくれて、売上が300万円くらい立ちます」

保険加入、引越し、住宅購入、結婚というウェブクルーの比較見積サービスは、いずれもお客様の人生の転機にあたるもので、重大な個人情報を握ることになる。それがマーケティングに利用されることへの不安はないのだろうか。

「お客様から入力していただいた個人情報はマイページでお客様自身も見られますから、もし嫌ならいつでも消していただけます。便利な機能だからいろいろ提案してほしいという方は使っていただければいいし、そうでない方のデータは残しません」

青山社長の考えはいつも明確だ。会社が無理に「買ってくれ」と言わなくても、良い商品、良いサービスであればお客様から「売ってくれ」と言ってくるはずだ。会社はそのための機会を提供するだけでよいのだ。

だから会員を囲い込むという発想はまったくない。青山社長が構想するのは、今よりももっと開かれたネット社会だ。

「会員数にはあまり意味はありません。たとえば大手予備校の東大合格者数を

すべて足したら、実際の東大の定員よりも多くなるでしょう。あれは一度でも模試を受けると会員扱いになるからです。それと同じように、たとえばあるサイトがどんなに会員数を増やしても、その人たちがいつもそこを利用するわけじゃない。大事なのは会員数ではなく、実際にお客様に使ってもらうことです」

たしかにヤフーや楽天はいくつものサービスを持っているが、消費者はたとえば書籍はアマゾン、化粧品は楽天、ニュースはヤフー、検索はグーグルと使い分けている。そのなかの一つとして、比較見積はズバットと覚えてもらうことが当面の目標だ。

「そのための方策として、今年はTSUTAYAのTポイントのように、他ブランドとの連携を考えています。互いにお客様を還流しあうことができれば、広告費が削れて、お客様へ利益を還元することができる。誰もが得をするサービスになるでしょう」

失敗をおそれないウェブクルーのチャレンジが、どのように結実するのか注目したい。

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