社会に還元されるサービスポイント〜ドット・デザインが実現するスモールコミュニティへのO2O

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菊地由美子

数年前に巷をにぎわせたポイントサービスの競争激化は、大手企業を中心に、いくつかの陣営に分かれて繰り広げられた。こうした展開に少なからぬ消費者が疲弊を感じる現在、変化の動きがスタートアップ企業のなかに見えはじめている。

都市生活者に親和する検索機能

 

美味しいものを食べたり、エステで疲れた体を癒したりして、貯まったポイントは社会貢献に。

そんな理念を実現した新しいソーシャルポイントサービス「mydot」が2012年9月にリリースされた。

このサービスは、スマートフォンで目的に応じて飲食店や美容院などを検索し、実際の利用で貯めたポイントをクーポンなどに交換できるほか、NPOなどが行う社会貢献活動に寄付することができる。ポイントは、「dot」という単位で蓄積される。

アプリを開発したドット・デザイン代表取締役の紺野よしまさ氏は「還元率の高いポイントサービスで、かつ貯めることに意義があり、貯めた先が明確なものになっている」と胸を張る。

サービスを利用するには、まずApp Store で配布されているiPhone用の無料アプリをダウンロードし、Facebook やTwitter のアカウントでログインする。店探しの際は、飲食や美容などといったカテゴリーやエリア、目的、重視するポイントなどの条件を設定して検索する。たとえば、「飲食店」のカテゴリーで、「エリア」は「恵比寿」、「目的」は「デート向き」、「重視」は「イタリアン」などと選択し、「探す」をタップ。すると、条件に合った店のなかで特におすすめの店のページが表示される。

店のページには、店内の内観や料理の写真が並び、「お会計から10%」など、その店の利用で貯まるdot ポイントが明記されている。さらに、曜日ごとの混雑状況も表示されている。気に入れば、ワンタップで電話して予約するか、お気に入りリストに追加しておく。

他店を見る場合は、「違う角度で探す」をタップすると、他の候補を含めたおすすめの店舗一覧が9分割されたウィンドウに表示される。この9分割のウィンドウは、X軸とY軸からなり、

最初は「おすすめ」度と駅からの「距離」の2つの軸で選別された9店舗が表示されているが、この軸を、「dotポイント付与率」や、「ディナー予算」などに変更することも可能だ。

店を検索する際の「条件」はほかに、「二軒目向き」、「合コン向き」、「女子会向き」、「一人飲み向き」、「読書/PC作業向き」などのシチュエーションが用意されている。「重視」はほかに、「お子様連れ歓迎」、「バリアフリー」、「オーガニック」、「アレルギー表示」などの項目がある。

SNSアカウントでログインしているため、自分の「友達」や「フォローしている人」が行っている店から優先的に並び替えることも可能だ。リアルな友人や著名人が評価して通っている店ならば、信頼度も高く、共通の話題が増える。

店名でリストアップされる他のサイトと比べ、全体的に視覚的に店の雰囲気や特徴をつかみやすいデザインになっている。

生活情報に対するリテラシーが比較的高く、ライフスタイルに意識の高い都市生活者層に非常に親和する検索条件といえる。価格や利便性にとどまらない付加価値を求める層への訴求力が高いものだからだ。そして、こうした層が社会貢献への意識が高いことにも注目しておきたい。

 

こだわりの店にポイントを

 

dot ポイントはアプリのマイページに貯まる。店舗で会計した際に、店側から4桁の獲得IDが発行される。そのIDをアプリから入力すると、ポイントが貯まる仕組みだ。「会計の10%」など金額に応じたポイントがつく。

加盟店は2013年1月現在で、最初に営業を始めた恵比寿・代官山を中心に、飲食店約70店、ヘアサロンなど美容系が約50店。全国チェーンの飲食店などは含まれず、既存のポータルサイトなどの情報媒体に掲載されていない店が多いという。

媒体としての店舗数はまだまだ少なく、これからに期待されるが、紺野氏は店舗数増加を最優先するつもりはないという。「こだわりやストーリーのあるお店と、そういうお店に行きたいユーザーをマッチングするポイントサービスでありたい」との理念からだ。

dot ポイント加盟店には、これまで広告などを一切出さずに営業してきたオーガニックレストランの草分け的存在である「MOMINOKI HOUSE」や、2011年にミシュランの1つ星を獲得した「レストラン ヒロミチ」、恵比寿の隠れ家フレンチレストラン「JENITH GUSTRO」など、知る人ぞ知る実力派レストランの名が並ぶ。

こうしたこだわりの店舗が、ポイント還元のクーポンや追加サービスを行っていること自体、意外の感がある。それらの店は、顧客に商業性を意識させないブランドとして確立しており、ポイント発行や割引が親和しないように感じるためだ。

おそらく、これらのレストランやショップは、大手企業が主導するポイントサービスであれば加盟していなかったのではないか。逆に、そうした店舗が、dot ポイントに加盟していることが、その理念とデザイン性の高さを証明しているともいえるのではないか。この点にmydot の新しさと可能性がある。

mydot システムの利用料は、店舗側が還元するポイントの手数料と基本料金と決められている。興味深いのは、全体の還元ポイントの設定は、店側に任されているという点だ。これは大きな特徴だ。

加盟店には店用のiPad アプリが配備されており、たとえば飲食店なら「会計の6%」、「2000円以上利用で100dot プレゼント」、ヘアサロンなら「月曜日の来店で10%」、「エクステ編み込み50本500dot」など、会計額からどういう条件でいくらポイントを還元するのかというルールを、店側が決めてよいのだ。

ポイント還元率の最低ラインや最高ラインは設けていないが、あまりユーザーへの還元ポイントが小さいと利用者は増えないため、周囲の店舗を目安にしながら、ある程度の還元率に落ち着いてくる。現在、加盟店の平均で会計の10%程度が設定されているという。

紺野氏によれば、「他社の情報サイトや共同購入クーポンサイトなどでは、ユーザー側への値引きと運営側への手数料をあわせて飲食店なら20〜30%、美容系のお店なら30〜55%もの割引をしているのが現状」という。その割引が結局、ユーザーに提供する商品やサービスの質の低下を招いてしまうケースもある。少し量を減らす、少し素材の値段を下げる、少し手間を短縮する……。そういう点に対して、ユーザーは非常に敏感である。既存のリピーターさえ失ってしまうことになりかねない。これでは店側が自分の首を自分で絞めているようなものだ。

それに比べて、集客に対するコストが売上の10%というのは、店舗側にとっても負担が少なく、客が増えて稼働率が上がれば、その程度の値引きは吸収できる数字だ。むしろ、本業に専念できて質を高めることもできる。

来店客の満足度が高ければFacebookやTwitter などのSNSで店の情報やmydot のページを紹介してくれる可能性がある。そうなれば、新規顧客を呼び込む効果も期待できる。

SNSの「友達」や「フォロワー」には似たような属性や嗜好を持った人が集まっている可能性が高い。知り合いの「おすみつき」も手助けして、宣伝効果が充分に見込めるだろう。加盟店のレベルの高さは重要なファクターとなって、SNS上での情報拡散を促している。

ポイントをどう社会に還元するか

 

貯めたポイントは、ポイントを発行した店の再利用の際だけでなく、加盟する他店でも利用することができる。紺野氏は、「mydot には地域通貨的な概念が背景にある」という。一店舗が潤えばよいのでなく、恵比寿、代官山、渋谷といった一つひとつの街が、mydot によって活性化していくというイメージを、すべての加盟店に持ってもらえるように伝えている。利益追求主義のチェーン店や、独自の理念やこだわりがないであろう店舗に対して営業しないのには、そういった理由もあるのだ。

冒頭で触れたように、mydot はパートナーシップを結ぶNPOに、ユーザーがポイントを寄付することができるのが大きな特徴だ。

ドット・デザイン社外取締役の鴨志田由貴氏は次のように解説する。

「今までいろんなポイントサービスがありましたが、貯めることばかりで、使うことをあまり真剣に考えていなかったように思います。せっかくアクションで生まれたポイントだから、アクションに活かしていきたい。貯めて割引のポイントよりも、社会のために使うポイントに移行しようという取り組みです」

現在の寄付先は、「難民支援協会」、「ジョイセフ(JOICFP)」、「かものはしプロジェクト」、「BONDプロジェクト」、「アスイク」の5つのNPO。今後、会員数が増えるに従って、寄付先の団体数を増やしていくことも考えているという。

パートナーとなるNPOの選定基準について、鴨志田氏は「まず財政的に破綻しないということと、代表者と直接会話ができて活動内容が確認できていること」と話す。またNPOに対し、寄付金の使途を明確にするために、映像や写真を通した活動報告を求めている。

「活動の様子を撮った動画をYouTubeにあげてもらい、いくらの寄付金でこんなことができましたという報告があれば、ユーザーにとっても面白いし、達成感につながる」(鴨志田氏)。説明責任を果たすことは、mydot への信頼にもつながる。

寄付金を募る社会貢献団体は、積極的に情報開示して自分たちの考え方やお金の使い道を明らかにしておけば、寄付する側もその内容をきちんと理解ができるだろう。ユーザーは、活動する人の顔が見えることでより身近に感じることもできる。mydot を通じて社会貢献活動への寄付を訴える以上、そうした相互理解ができる環境をつくることも、大切にしている。

加盟店にとっても、mydot のパートナーになることで、社会貢献に参加するハードルが下がったといえる。

「個人営業の小さい店舗では、社会貢献したい気持ちがあっても、どんな団体があるのか、どう参加すればいいのかがなかなかわからないし、もしすでに社会的活動をしていたとしても、顧客からは見えにくいものでした。それが、mydot の仕組みを使えばすぐに社会貢献に参加でき、顧客からも見えやすくなるというメリットはある。お客とも共通意識をもつというつながりを持てます」(紺野氏)

少ない金額で、できる範囲で困っている人を支援したいという思いを持つ人はいるはずだ。それがこの仕組みに参加することで、可能になるというわけだ。

 

震災からの出発

 

mydot の発想の原点は、自分が使いたいポイントサービスがなかったことにあると紺野氏は説明する。

「たとえば100円で1ポイントしか貯まらない既存のポイントサービスなどは、貯めているつもりでいてもなかなか貯まらなくて、僕は面倒くさいからコンビニなんかで聞かれたときは、カードを持っていても『持っていない』って言ってしまうことが多いんです。では、クーポンサイトのように還元率が高ければいいかというと、バーゲンハンターのような激安目当てのお客ばかりが来て、2度目3度目に続いていかない。ポイントを提供する側も、貯めて使う側もとても納得感があって、その両者がうまくつながれるポイントの仕組みって、もっと上手につくれないものだろうか、という思いがありましたね」

そんな漠然とした思いを抱えたまま、紺野氏は前職のコンサルティング会社に勤務していた2011年3月に、出張で訪れていた宮城県仙台市で東日本大震災に被災した。

津波の全貌を知ったのは翌12日。発電機が導入されてテレビがつくと、日本中の誰もが愕然とし、恐怖に震えた、あの信じられない光景が映った。

そして、紺野氏らが身を寄せた避難所からそう遠くない名取市でも、津波の大きな被害が出ていることが伝えられていた。

「自分は東京に帰れば元の生活に戻れますが、現地の彼らは……と考えると他人事ではありませんでした。このときの感情が、『自分が震災の日に仙台にいたのにも、何か理由があるのかもしれない』と思わせ、いま苦しんでいる人に対して、『何かしたい』と考えるきっかけになりました。そして、自分が暖めていた事業アイディアと組み合わさって、mydot が生まれたんです」

紺野氏は、その3月末にコンサルティング会社を退職し、4月には新しい会社を登記して事業を始める準備に入ったという。

「震災前の私は、社会貢献と聞くと『偽善』なんて言葉がまず頭に浮かんでしまうような人間で、募金活動するくらいなら自分が働いて稼いだお金を募金したほうが早いんじゃないかとか、事業を興してビルゲイツのように財団をつくったほうがいいんじゃないかと考えていました。

でも今度のことが起きて、社会や会社は何のためにあるのかと考えるようになりました。会社は社会のなかで成り立っているのだから、事業が社会とつながることも必要かなと思うようになったんです。

見ず知らずの他人のことをどこまで考えても、やはり他人事にはなってしまうのかもしれません。でも、自然災害でも戦争でも貧困でも、常に苦しんでいる当事者がいて、近くにいて助ける活動をしてくれている人たちがいるわけです。mydot は、そんな方々を少しでも多くの人が少しずつ、気楽にサポートできるような、そんなインフラにしたいと思っているんです」

紺野氏は、「この数日の経験が人生において強烈なインパクトを与えたことは間違いない」と振り返る。

mydot で貯めたポイントは1dot(=1円)単位から寄付にまわすことができる。現状では、貯まったポイントのうち、20〜30%が寄付に充てられている。これは、アメリカン・エキスプレスカードの利用者が、ポイント交換先に社会貢献を選ぶ割合とほぼ同程度だという。

ボランティアや無償の支援という概念については、日本は欧米に比べて途上国だと言われ続けてきた。阪神淡路大震災がその概念が少し変わる契機になり、東日本大震災では日本人の意識が大きく変わったと言われている。紺野氏は「mydot の取り組みがユーザーに共感を得られていると感じます。私と一緒で、やはりみんな社会貢献に対する意識が大きく変わったんだろうと思う」と感想を漏らす。

「震災のとき、貢献の手段が明確になったら、自分のお金と時間を使ってでも助けに行きたいという人が多くいました。だったら自分が普段行っている店で髪を切ったり、お酒を飲んだりして貯まったポイントを、1000円分でも、何かで使った端数の50円分でもいいんです。支援に使ってほしいですね」(紺野氏)

 

地域のためのO2O グローバルのためのO2O

 

今後は、カバーするエリアを恵比寿・代官山から、渋谷・青山、銀座、麻布十番、自由が丘、吉祥寺、中目黒などに順次拡大していく予定だ。紺野氏は、「企業としての体力がついてきたら全国に展開していきたい」と意気込む。飲食や美容関連だけでなく、他分野への展開も計画する。

「旅行をする人にも使っていただけるように、地方の飲食店などに加えて、いい旅館があったりしてもいい。ほかにも、カーディーラーで試乗した場合とか、住宅展示場やマンション見学をしたらポイントがつくということも考えています」(紺野氏)

mydot を地域活性という観点から見れば、カーディーラーやマンションが販促用にポイントを配ってくれれば、ユーザーがそこで溜まったポイントを使える飲食店に行くという可能性が高まる。

あるいは飲食店に行った客は、店長から、「今、あそこのマンション見に行くとポイントもらえますよ」と聞いて展示場に足を運ぶかもしれない。そうなると、地域ぐるみのO2Oが成り立ってくる。

ユーザーが行動し、消費する範囲であれば、日常生活での些細な消費行為でポイントがつき、それがまた地域社会に還元され、相互作用を生んでいくのである。

さらに、アプリ自体には今後、大幅な改良が加えられていく。近い将来には予約やオーダー、決済機能を搭載することも検討している。実現すれば、予約から決済までのすべてが、手元の

スマホでキャッシュレスに行えるようになる。店側から見れば、予約や会計時の煩雑な業務が減り、レジさえも置く必要がなくなるシステムだ。

さらに、それらの大量のデータをもとにした事業の構想も膨らむ。

「たとえば、僕が個人的に知りたいのはイタリア人が通っているパスタ屋のデータ。フランス人が行っているフランス料理店がどこで、韓国人が行っている韓国料理店がどこかという情報がわかれば、次の展開として、ある特定のクラスターではどういうものが売れていて、それに対して出店する際にはどんなメニューが適しているのかという提案をしていくことができる」(鴨志田氏)

さらに中長期的には、海外展開も構想している。鴨志田氏は、「社会貢献に関心のある人の割合はやはりそれほど多くはなく、一定以上はいないと思っている。でも、×国数で増やしていけたらいい」と話す。

これは、ポイントを社会貢献に利用するうえでもメリットがある。

「日本から海外に寄付しようとすると成約がいろいろあるが、ポイントならば海外で活動しているNPOに直接送ることも可能。それは逆もしかりで、海外の人が日本の団体に送りたいと考えたときに僕らのサービスでできれば、ポイントが世界中に流通することになる」(鴨志田氏)

これまで見てきたのは消費者に対するポイントサービスだが、さらに、企業間取引でもサービスを応用していきたい考えだ。

「飲食店が食材などを仕入れる際に、ポイントが付くとします。飲食店はそのポイントを、次の仕入れの値引きに使うのではなく、お客に発行するポイントに転用できたらどうでしょうか。

この場合は当社の手数料分は取らずに使ってもらう。そうすれば飲食店側のメリットはより大きくなり、卸業者が発行するポイントの価値が上がり、他社との差別化が図れるわけです」(紺野氏)

このような考えをもとに、現在、卸業者との事業計画を進行中だという。また、加盟店やユーザーに対し、生産履歴情報付きの安心・安全な野菜を提供する計画などもあり、今後の展開は多岐に渡る。dot ポイントを基軸にした価値のやり取りが国境を越えて広がる可能性も十分に見据えている。

そのすべてに貫かれているのが、こだわりやストーリーを持ちつつ社会にコミットしていくことが、mydot の思想だ。洋服のセレクトショップのように、mydot は取り扱う商品(店)を選び、それを利用する人が選ぶ。世の中に多くのポイントサービスがあふれるなかで、mydot はひとつのメッセージとして価値を打ち出していくことだろう。