激安クーポンを販売する「グルーポン」が大人気の理由は?

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三浦一紀

インターネット上にはこれまでになかったアイデアのビジネスが日々生まれている。そんなネットの世界で、最近、もっとも成功している注目のビジネスを紹介する。

今ブームになっている「共同購入クーポンサイト」とは?

「共同購入クーポンサイト」をご存知だろうか? これは、特定の店舗や商品のクーポンを、オンライン上で販売する新しいタイプのクーポン販売サービスであり、「フラッシュマーケティング」と呼ばれるマーケティング手法を用いている。

元々はアメリカが発祥の地。現在はアメリカやヨーロッパをはじめ、世界各国でこのフラッシュマーケティングを用いたビジネスを行う企業があり、人気を集めている。

現在、日本では「共同購入クーポンサイト」がブームになっている。

2010年春頃から徐々に増え、現在は約100サイト以上存在するとも言われているのだ。

そのなかでも、業界最大手が「グルーポン」(http://www.groupon.jp/)だ。運営会社のグルーポン・ジャパンは、2010年7月に「Qpod」名で共同購入クーポンサイトを開始。そして8月には米グルーポンの資本提携を受け、グルーポン・ジャパンに改組、サービス名もグルーポンとして現在運営している。他の共同購入クーポンサイトと比べても売上高は群を抜いており、まさに日本を代表する共同購入クーポンサイトだ。現在は、30エリアで毎日クーポンを発行している。(2010年11月4日現在)

同社のサービスを例に挙げると、平均割引率が通常価格の50%以上という大幅なディスカウントをしている点と、購入期限および販売成立枚数が決まっているのが特徴だ。

たとえば、Aというお店の商品が、通常価格の50%で購入できるクーポンが販売されるとしよう。その際、購入期限は24時間、販売成立枚数が50枚などと定められている。この場合、24時間以内に50枚の購入申し込みがなければ、そのクーポンは販売されない。もちろんその場合は、購入申し込みをした人にも料金はかからない。

また、基本的に1日に扱うのは1店舗のクーポンのみというのも、従来のクーポンとは異なるところだ。1日1店舗に限定することで、その1日はクーポンを提供している店舗が注目される。いわゆる1日限定のスポット広告のような効果が得られるのだ。

グルーポンでは、クーポン発行エリアを設定して「1日1エリア1クーポン」という形態をとっているのも特徴的。これにより、ユーザー個人個人に密接なクーポンを発行できるようになる。

従来の無差別広告からターゲットを決めたクーポンへ

一般的な共同購入クーポンサイトのビジネスモデルは、概ね次の通り。クーポン購入代金は店舗の代わりに運営サイトが決済。そして、売上枚数に応じて一定の割合で店舗と売上をシェアする。グルーポンも基本的にはこのビジネスモデルで運営されている。

これだけを見ると、大幅割引を行う店舗が割引分+サイトへの報酬で大きな損失を被っているように感じるが、実際はそんなことはない。

たとえば、これまで店舗側は集客のために、各メディアに広告を出したり、割引クーポンをフリーペーパーや雑誌、新聞折り込み広告などに出稿していた。

この場合はそれ相当の広告費がかかる。

しかし、その広告によりどのくらいの集客が見込めるかは予測不可能。つまり、来るか来ないかわからない客のために広告費を使っていることになる。

しかし共同購入クーポンサイトの場合、店舗側は大幅な割引をしているものの、クーポンの販売枚数をあらかじめ知ることができる。また、クーポンの上限を設定することも可能。ここで、割引後のクーポン売上+サイトへの支払いで赤字にならなければ、経費ゼロで集客ができるということになる。

仮に赤字になっても、あらかじめその金額を知ることができるうえ、確実な来客を見込めるのだから、広告費と考えればかなり効率がよいことになる。

また、クーポンが成立しない場合は費用ゼロとなるため、損はしないシステムとなっている。

もちろん、サイト側としては、クーポンが成立しないと利益が発生しないため、

クーポンが成立するための努力を行う必要がある。この努力が、クーポンを提供する店舗の宣伝ともなるわけだ。

共同購入クーポンサイトはツイッターなしでは成立しない!

実はこの共同購入クーポンサイトは、現在のITツールなくしては成立しない。それはツイッターやSNSなどのソーシャルメディアだ。

「共同購入クーポンサイトは、アメリカではツイッターやFacebookといったメディアを通して急成長しました。日本ではFacebookはまだ浸透していませんので、ツイッターによる力がたいへん大きいといえます」

こう語るのは、グルーポン・ジャパン執行役員の渡邉卓也氏だ。

共同購入クーポンサイトの特徴は、クーポン成立のために時間制限と販売成立枚数が設定されていること。これがツイッターと相性がよいのだという。

「ブログであれば、公開してからユーザーが見るまでのタイムラグが長くなってしまいがちです。これでは購入期限までに間に合わないこともあります。

しかしツイッターでクーポンの情報を見ることができれば、すぐに購入できる。しかも、成立しなければ購入できないので、一緒に行く人を呼びかけたり、こんなクーポンがあるよと紹介するのも、ツイッターを使えば簡単にできます。まさにツイッターあってのサービスではないでしょうか」

また、ツイッターの情報伝播力も重要。まったくグルーポンのことを知らない人でも、自分のタイムライン上に誰かのツイッターでグルーポンのクーポン情報が流れてくる可能性はかなり高い。実際グルーポンでは、クーポンの告知はサイト上、メール、ツイッターのみということだ。

ツイッターとの親和性は、これはクーポンの販売というだけにとどまらない。実は、社員の採用に関してもツイッターが活躍しているというのだ。

グルーポン・ジャパンは急激に成長している企業のため、とにかく人手が足りていない状態。そこで数百人単位で社員を増やす計画をしている。そのような折、社員がツイッター上で「一緒に働きたい人いませんか?」とつぶやくと、ツイッターを通して面接希望の人から連絡があり、即面接、採用ということもあるそうだ。

 

地域活性まで視野に入れるグルーポン

これだけを見ると、イージーなビジネスのように見えるが実際は異なる。

一番重要なのが、クーポンに掲載する店舗選びだ。掲載する店舗に関しては、

店舗側からのオファーを受け付けているほか、社内の専門チームが日々探しているという。口コミ、雑誌などで店舗を探し、掲載の基準を満たしているかをチェック。実際に足を運んで店舗の様子を伺うこともあるという。ITリテラシーの低い店舗の場合は、まずシステムの説明からすることも。かなり手間ひまをかけているという印象だ。

「お客様をがっかりさせてはいけない。ワクワクしてほしい。そのためにはクーポンのクオリティを高めることが一番。ゆえに、お店側と私たちの双方の信頼関係と協力が不可欠です。それ以外にも、毎日クーポンを発行する、発行したクーポンがその日のうちに使える、飲食以外にも美容やレジャー、エンターテインメントといったジャンルのクーポンを扱うことで、ワクワク感、ドキドキ感をもってもらえるように努力しています」

グルーポンには、ただ単純にクーポンを販売するという目的だけではなく、最終的には店舗と、店舗のある地域の活性化という目的もあるという。グルーポンの場合、クーポンを購入した人は、店舗に足を運んでサービスを受ける。そして店舗のサービスが気に入れば、リピーターになる。そのことにより、店舗も地域も活性化していくという考えだ。

「過去に掲載したクーポンは、グルーポンのサイトから見ることができます。

これは、ある意味シティガイド的な使い方ができます。たとえば、知らない土地に旅行する場合、ガイドブックを購入する人が多いと思います。それらは参考にはなりますが、ほとんどがお金を払って掲載してもらっているところばかり。しかし我々のクーポンは、我々が厳選したお店が掲載されています。お店側が掲載料を払っているわけではありませんので、グルーポンの信用とブランドの元に選ばれたお店が見られるというわけです」

確かにグルーポンのサイトには、過去のクーポンが見られるメニューがある。当初、これは単なる「これまでこんなクーポンを扱ってきました」という紹が目的のものかと思っていたが、実際にはかなり深い意図があって掲載されているということがわかった。

IT系サービスでありながら女性に支持されている

共同購入クーポンサイトは、日本ではまだ始まって日が浅い業種だ。このサービスを世界で初めて開始した米グルーポンも、創業2年あまりと若い企業。しかし、アメリカではすでにグルーポンはブランド化している。日本以上にツイッターをはじめ、Facebookなどのソーシャルネットワークが発達しているためか、情報伝播力が速く、瞬く間に浸透していったようだ。

すでに米グルーポンでは、一度掲載された店舗から、「もう一度掲載して欲しい」という要望が多いそうだ。グルーポンに掲載されることが、一種のステータスとなっているのだ。現在、新規にクーポン掲載の申し込みをしても、実際に掲載されるのは3カ月から半年先という状況だという。

日本ではまだそれほど掲載依頼はないものの、企業努力もあり日本の共同購入クーポンサイトではダントツの売上を誇る。

なお、ITを絡めたサービスでありながら、20代から30代前半の女性(F1層)に人気が高いのもグルーポンの特徴だ。ターゲットを女性にしたクーポン――ネイルサロンやエステ、フットアロマといった美容系やスイーツ系など――が多いこともあるが、他社に先駆けてモバイル対応に力を入れている点も挙げられる。

「携帯電話やiPhone、アンドロイドなどのスマートフォンにいち早く対応しました。これらが立ち上げ初期の頃からあったということも女性会員が多い要因だと思います」

ITを駆使したサービスというと、どうしても男性がメインと思いがちだが、通信販売などのeコマースは実は女性がメインターゲット。これはテレビ業界にも通じることで、ヒットさせたいと思うものは、若い女性、いわゆるF1層をターゲットにするのは定石。

グルーポンもその定石を外してはいない。

スピードだけではビジネスは成立しない。

最終的には「人と人」現在、グルーポンは、30エリアで毎日クーポンを発行しているが、これを継続していくのはなかなかたいへんなことだろう。結局のところ、掲載する店舗の決定、店舗とのクーポン内容の折衝、トラブルやクレームの対応などは、いくらITを使ったサービスとはいえ、最終的には人間が行わなければならないからだ。行き着くところは、グルーポンと店舗、グルーポンと顧客、店舗と顧客という、人と人との繋がりに集約される。

「インターネットを使ったサービスでありながら、密接に地域と連動しているというのがいいところだと思っています。グルーポンは単にクーポンを販売して終わりではなく、お客さんに足を運んでいただき楽しんでもらうサービスなので、実際にはお客さんとお店の関係になっていく。これが地域の活性化につながればいいと思います」

ツイッターを使ってのスピード感が重要な共同購入クーポンサイトだが、グルーポン、店舗、ユーザーの関係は時間をかけて熟成していくもの。現在、ツイッターを使って何かビジネスを始めようと考えている企業も多いだろう

が、目先のスピードだけにとらわれずに、その後に続くゆっくりと、そして濃密な時間の流れにも眼を向けることができれば、何か新しいビジネスが生まれるかもしれない。グルーポンはその可能性を示してくれている。