広告の舞台は水中戦へ

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最新兵器「Twitter」で新しい広告のかたちを探る

三浦一紀

インターネットの普及以降、これまでのマスメディアを対象とした各企業の広告戦略が大きな転換期を迎えていることは、ビジネスパーソンにとって誰の目にも明らかだろう。広告の在り方そのものが変化を見せているのだ。誰に何をどのように発信するのか。時代はブログマーケティングの飽和からTwitter 活用の模索期に入っている。

もはや広告媒体として魅力的ではないマスメディア

ご存知のとおり、最近はテレビの視聴率が下がり、雑誌の発行部数も落ちてきている。テレビ番組からは高額なギャラを必要とする大物タレントが消え、若手芸人と局アナ、番組の生放送化で経費を削減。雑誌は定期刊行物が休刊あるいは廃刊に追い込まれ、書籍の売上も芳しくない。

このような状況では、スポンサーからも見放されてしまう。現実問題として、新聞・雑誌・テレビ・ラジオといったマスメディアの広告収入は減少を辿る一方。広告収入を大きな柱

としてきたメディアは、かなり苦戦を強いられている状況だ。

このような状態になってしまった要因は、若者をはじめとしたテレビ離れ、活字離れが挙げられる。なぜテレビや雑誌を見なくなったのか。それはインターネットの普及によるところが大きい。

出典:経済産業省特定サービス産業動態統計調査長期データより
http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/tokusabido/result/result_1.html

テレビや雑誌に比べ、インターネットは即時性が強い。とくに携帯電話の爆発的な普及により、いつでもどこでも気軽にさまざまな情報にアクセスできる状況にある。見たい、知りたいと思った瞬間に情報を得ることができるのだから、毎日発行される新聞ですら、そのスピードには追いつけない。

今やテレビ・ラジオ局や出版社も、インターネットに進出しコンテンツを提供するようになってはいるが、それが広告収入に結びついているかというと、そうでもない。まだ手探りの状態だけに、状況が上向くにはあと数年かかるのではないだろうか。

クチコミ力を活かしたブログマーケティングもやや失速気味

しかし、インターネットの広告収入がテレビや雑誌のそれに取って代わったかというとそうでもない。まだまだインターネット広告は黎明期といってもよく、広告収入により運営が維持できているサイトはごくわずかといってもよい。

そこで注目されてきたのが「ブログ」だ。今では星の数ほどのブログが存在する。そして、ブログと共に注目されたのが「アフィリエイト」だ。ショップや企業にとっても、ブログ運営者にとってもコストの掛からない広告システムのため、アフィリエイトを念頭においたブログも多数登場し、一部の非常に影響力の強い(=読者が多い)「アルファブロガー」も現れた。

アルファブロガーに紹介された商品やサービスなどは、読者の間で瞬く間に話題となり、売上が伸びる。まさに強力なクチコミツールとなっているのだ。

このような動きに目をつけた企業は、アルファブロガーをネットワーク化して商品の記事を書いてもらうための広告代理店のようなものを立ち上げたり、企業がブロガーを集めて商品やサービスのプレゼンテーションを行う「ブロガーミーティング」なるものまで開催するようになった。もはや、商品の発表の矛先がマスメディアではなく、ブロガーという単位まで細分化されてきているのだ。

大きな成功事例としては、サントリーのハイボールがある。サントリーがブロガーイベントを開催し、ハイボールをアピールするとブロガーがこぞってハイボールをブログで取り上げ、一躍ブームとなった。

だが、このブロガーを使ったクチコミ(風)マーケティングも最近では翳りが出てきている。その理由をいくつか挙げてみよう。

1 ブロガーの増加:ブログの開設は敷居が低いため、誰でもブログをはじめることができる。そのため、ブロガーが急増。また、アフィリエイトで収入を得ることを前提としているブログが増加。もともとは個人的なことを書くためのツールであったブログに、あからさまな商品紹介だけのアフィリエイト主体のブログが増えたため、読者が一種の嫌悪感を抱きはじめている。

 

2 ブログを使った広告を推進する企業が登場:ブログのクチコミ効果を狙って企業から広告料をもらい、それを登録したブロガーに1件100円などの低価格で記事にしてもらうことを行う広告代理店のようなものがいくつか登場。これもまた、ブログの信頼度を下げる要因となっている。

 

3ブロガーイベントの乱発:サントリーがブロガーイベントを上手に利用し、ハイボールを復活させた事例があるためか、安易にブロガーを集めてイベントを開催する企業が増加。ブロガーからは、乱発されるイベントに嫌気が差しているという声も。

 

4 アルファブロガーの心境の変化:あからさまにブログを広告媒体として利用しようという企業の思惑が強くなるにつれ、それまでブログ界を牽引していたアルファブロガーたちが、ブログが利用されている現状を憂い、ブロガーイベントやネットワークへの参加を見合わせている。

ブログとは本来、自由に好きなことを書いてよい場である。ブロガーイベントでも、そのイベントについて書く・書かないはブロガーの自由。つまらなかったら書かなくてもよいし、「つまらなかった」と書いても、それは個人の自由なのだ。

しかし、その原理が崩れ始め、お金を払ってブログ記事を書いてもらうというシステムも発生。このようなブログが増えてくると、アルファブロガーの記事まで「どうせ金もらって書いてるんだろ?」と見られてしまう危惧も出てきている。そのため、有名ブロガーは比較的そのようなイベントなどから距離をおいているのが実情だ。

また、代理店などが主催するブロガーイベントは、昼間に開催されることが多い。ブロガーの多くは、日中は普通に会社員として働いている人も多いため、日中に開催されても参加できないことが多い。ブロガーイベントなのに、ブロガーの都合よりも自分たちの都合を優先させているととられてもおかしくないこのような状況に、苦言を呈するブロガーもいる。

140文字でつぶやくT w i t t e r は新しい広告ツールとなるか?

現在、ブログよりも注目を浴びているのが「Twitter」だ。簡単に説明すると、140文字でつぶやくという、シンプルなもの。つぶやくと、Twitter 上に表示される。ただし、それだけではTwitter はおもしろくない。Twitter を楽しむためには、フォローをする必要がある。

フォローとは、ほかのTwitter ユーザーを自分のTwitterアカウントに登録すること。そうすることで、そのユーザーのつぶやきを自分のTwitter 上に表示できる。これを「タイムライン」と呼ぶ。フォローする人が増えてくるとタイムライン上にいろいろなつぶやきが表示されるようになる。もちろん、自分も誰かにフォローしてもらうと、相手のタイムライン上に自分のつぶやきが表示されるようになる。巷では「マイクロブログ」と呼ばれることもある。

140文字という字数制限があるため一見不便そうに見えるが、逆に気軽に書けるためか、かなりの盛り上がりを見せている。最近では、政治家や芸能人もTwitter をはじめるケースが増え、一般の人と気軽にTwitter 上でコミュニケーションを楽しんでいるのを目にすることもある。

Twitter は、基本的にWebサービスなので、Webブラウザ上から使用する。ただし、携帯電話やiPhone などのスマートフォン用のクライアントアプリも多数あり、どちらかというと移動中などに気軽につぶやいている人のほうが多いようだ。

そんな風に、徐々に盛り上がりを見せているTwitter。これをマーケティングや宣伝などに利用しようとする企業が増えてきている。

最近もっとも多いのが、企業がTwitter アカウントを取得し、一般のユーザーと同様、つぶやいているタイプ。大企業はもちろんのこと、街の居酒屋やレストラン、ショップなどもTwitter でつぶやいているところは多い。

目立つところでは、ユニクロ(@UNIQLO_JP)だ。ユニクロは週末のセール情報などを定期的につぶやいている。これにより、フォロワーはユニクロのセール情報をいち早く知ることができるというわけだ。

また、ユニクロはTwitter とWebサイトを連動させ、さまざまなイベントを開催。Webサイト上でバーチャルな行列を作り、そこに並ぶとTwitter で「○○番目に並んだ」とつぶやくことができるといった、インタラクティブな試みも行っている。ちなみに、行列に並んだユーザーには抽選でTシャツや割引券などが当たるようになっている。Twitterを上手に使っている企業といえるだろう。

そのほかでは、大手不動産会社の三井不動産レジデンシャル(@31sumai_eco)が、住宅や環境に関するつぶやきを行うことで、ブランドイメージの向上を図っている。

 

T w i t t e r を集客につなげる試み

一般の企業に加え、テレビ局やラジオ局、出版社といったマスメディアもTwitter を使ってつぶやいている。つぶやきの内容はさまざまだが、制作現場の裏話的なものから番組内容の紹介が多い。また、ラジオ局では、番組ごとにアカウントを開設し、生放送中にTwitter で聴取者とやりとりをするという使い方も生まれている。

大企業の場合、Twitter といえども外部に対する公式コメントととられかねないため、ある程度形式的で、当たり障りのない内容になっていることが多い。

たとえば、担当者が個人的なことを企業のアカウントでつぶやいた場合、そのつぶやきは企業の公式なつぶやきと捉えられてしまうからだ。

もちろん、企業によっては担当者が自由につぶやいている場合もあるが、少数派といってもいいだろう。

一方、レストランや居酒屋、個人経営のショップなどの場合は、もっと積極的かつ直接的にTwitter を活用している事例がある。

その最たるものが「Twitter 割」だ。いくつかパターンが存在するが、もっともスタンダードなのは、来店時にTwitter ユーザーが申告すると、フォロワー数に応じて割引などのサービスが受けられるというもの。これはTwitter 上で告知されるケースがほとんどで、そのショップのアカウントをフォローしていることが大前提だ。

もちろん、上限を設定している場合もあるので、仮に10万人フォロワーがいたからといって、10万円分割引になるとは限らない。それはそのショップのルールに従う必要がある。

いずれにしても、Twitter を使った割引サービスは、いわゆる顧客に対するクーポンサービスのような感じで、集客のためのものといえる。

 

「ベネトン新宿なう」

このTwitter 割を行ったアパレルブランドがある。それがベネトン(@benettonpress)だ。ベネトンでは、本国イタリアの方針により各国でTwitter アカウントを開設。それぞれが独自にTwitter を使ってマーケティングやブランディングを行っている。

ユニクロをはじめ、アパレルブランドがTwitter でつぶやくこと自体はそれほど珍しいものではないが、割引サービスを実施したというのは、珍しいといえる。

実施されたのは2010年3月13日。新宿にリニューアルオープンした「ベネトン メガストア新宿店」のオープニングイベントとして「フォロワー割引」は行われた。

システムはシンプルだ。当日ベネトンのメガストア新宿店で買い物をしたあと、Twitter で「ベネトン新宿なう」とつぶやくと、フォロワー数×1円をその場で現金還元するというもの。金額に上限はなく、フォロワー数分、全額還元されたのだ。

このキャンペーンは、当日の15時にTwitter で呼びかけただけ。にもかかわらず、閉店の21時までに10名がフォロワー割引を利用。還元総額は11万円を超えた。

正直、このようなサービスはリスクが高く、大企業ではあまり採用されないと思われるが、なぜベネトンではできたのだろうか。ベネトンジャパンの広報宣伝部、大島さやかさんに聞いた。

 

販促ではなく広告としてのフォロワー割

なぜTwitter で割引サービスを行おうと思ったのですか?

「Twitter はまだ新しいサービスなので、どのくらいの効果があるのかを知るための実験という意味合いがあります」

これだけの大企業がTwitter を使った割引サービスをやるのに反対はありませんでしたか?

「今回のフォロワー割引は販売促進という意味ではやっていません。会社には広告費として掛けあいました。1フォロワー1円という換算をして、商品を購入して割引を受けたお客様が『ベネトン新宿なう』とつぶやく。するとそのつぶやきがフォロワーに一気に流れるわけです。仮に20万人のフォロワーがいる方がつぶやいたら、20万人に届くわけです。現在の雑誌の部数よりも遥かに多いですよね」

雑誌の広告は効果が薄れていると感じていますか?

「それはどこの企業でもそうおっしゃるんじゃないでしょうか。雑誌の広告で商品が売れると言い切れるアパレル関係の会社は少ないと思います」

社内ではTwitter についてどう感じていますか?

「複雑な媒体だと思います。社内では媒体と呼んでいますね」

その複雑な媒体でこのようなサービスを行うというのはすごいですね。

「今回の方法が、広告やマーケティングに興味のある人たちに伝わったらいいなと思っていたんですよ。ベネトンがこういうことをやったんだということが伝われば、それがすでに広告になっていると思って」

ベネトンとしてはTwitter をどのように使っていこうと思っていますか?

「アートやITに詳しい人たちに『そういえばベネトンっておもしろいことをやっているよね』と思われるようにTwitter を使っていけたらいいと思っています。たとえば、商品開発などにも可能性はありますよね。ベネトンを好きな人が『こんな商品があったらいいね』とつぶやいて、それがどんどん広がっていけば、反応がいいということになります。マーケティングにもなりますし、ユーザーの生の声も聞ける。そして『Twitter から生まれた新商品!』というように広告できれば最高ですね」

ベネトンはファッション界のTwitter 第一人者といえるんじゃないですか?

「そんなことありません(笑)。ただ、今回のフォロワー割引に関しては代理店などを使わずに社内だけで行ったんです。やはり代理店が入ってくるとこのような企画は難しいんじゃないでしょうか」

今後もTwitter やインターネットを使ったおもしろい企画などを楽しみにしています。

「また何かやりたいとは思っています。突然Twitter 上で発表するかもしれませんので、チェックしておいてください」

 

T w i t t e r の広告戦略は水中戦⁉

Twitter は、即時性が強いメディアだ。一つのつぶやきが瞬く間に世界中に広まる可能性がある。この特性を上手に利用したのが、ベネトンのキャンペーンだ。しかも、Twitterならばイベントに関する告知は無料で行える。まさにIT時代のスピード感あふれるツールといえる。

テレビや雑誌の広告が、派手な空中戦とするならば、ブログなどを使ったクチコミによる戦略はじわじわ攻める地上戦だ。そしてTwitter を使ったマーケティングは、一見何も起こっていないようで、ものすごいスピードで一定のユーザーに拡散する、水中戦といってもいいだろう。

もはや、空中戦も地上戦も効果が望めない今となっては、Twitter による水中戦が今後の広告のキーポイントとなってくることだろう。とくに、莫大な広告費がかけられない個人商店のようなところが、この水中戦を上手に利用すれば、大きな領土拡大を狙えるかもしれない。あまりよいたとえとは言えないが、Twitter は、ある意味、細菌兵器のような効果をもたらすものではないだろうか……。

 

柔軟な思考力と対応がT w i t t e r のポイント

今回はベネトンの事例を紹介したが、それ以外の企業もTwitter を使ってのマーケティングや広告は模索している段階といえる。キャンペーンの告知などを行っている企業もあるが、それも結局はWebサイトへの誘導というだけで、Twitter の特徴を活かしているとは言い難い。

Twitter は直接的な広告媒体とはなりにくい。Twitter での販売行為やアフィリエイトを禁止しているためだ。また、第三者による広告書き込みも禁止されている。

だが、使い方によってはマーケティングや広告ツールとして十分な威力を発揮できるポテンシャルを秘めている。

Twitter は非常に自由度が高く、誰もが気軽に参加できるのがウリといえる。それだけに、少し知恵を絞っていけば、いろいろな使い方が考えられる。

広告や宣伝だけではなく、開発やユーザーサポートといったことも可能だ。実際に一部のIT関連企業では、Twitterによるユーザーサポートを行っているところもある。

ただし、Twitter を使えば何でもうまくいくという考えは捨てたほうがよい。Twitter ユーザーは、自由にフォローできる代わりに、アンフォローも簡単に行える。もし、気に入らないアカウントがあれば、自分のタイムラインから排除してしまえばいい。逆にいえば、いくら自分からフォローをしても誰からもフォローされなかったら、ただのひとりごとを言っているだけになる。

つまり、企業がTwitter を使う場合には、ユーザーとの適切な距離を保つように心がける必要がある。ただ待っているだけでも、やみくもにフォローするだけでもダメ。フォローしてもらっているユーザーに有益な情報を提供し、さらにユーザーからのコメントに反応するということも必要。Twitterはある意味、双方向コミュニケーションで成り立っているメディアなのだ。

また、スピードも必要。Twitter 上ではつぶやきはすぐに過去のものとなる。そのため、すべてをスピーディに運ばないと、効果は半減する。できれば、Twitter 専任の担当者をつけ、常にTwitter で情報発信やコミュニケーションを図るくらいの気持ちがないとダメだろう。

従来の広告戦略では、もうこのIT戦国時代を勝ち抜くことは不可能。より尖ったTwitter という武器を、いかに素早く使いこなすか。水中戦はそこがポイントなのだ。