全国GMSのレジをタッチポイントに、コミュニケーションを実現するO2O〜カタリナ マーケティングジャパンが展開する「クーポンネットワーク」

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編集部

 多様化する時代のなかで、消費行動をいかに理解し促進するか。O2Oにおけるコミュニケーションの手法について、カタリナの取り組みを取材した。

店舗誘導の仕掛け

全国のGMS、スーパーマーケット、ドラッグストアチェーンなどにレジ・クーポン+レジ・広告システムを展開するカタリナマーケティングジャパンは、去る2012年7月、O2Oを目的としたクーポンサイト、「クーポンネットワーク」(http://couponnetwork.jp)をオープンさせた。

同サイトでは店舗で売られているさまざまな商品の値引きクーポンを入手できる。掲載されているのは、「ミツカン だしリッチ うどんつゆ54g 50円引き」、「片岡物産 モンカフェ各種 20円引き」など、身近な48商品のクーポン(2012年12月22日現在)。商品紹介ページにCMなどの動画が埋め込まれたものもあり、動画を最後まで見ると値引き額がさらに増えるという仕掛けもある。

ユーザーが、性別、生年月、郵便番号を登録すると、近隣のレジ・クーポン導入店がマップ上で表示される。そのなかから普段利用する店を選択するとその店舗で販売している商品のクーポンだけが表示される仕組みだ。そのためクーポンを持っていったらその商品を扱っていなかったというトラブルを防ぐことができる。ユーザーが欲しいクーポンをすべて選択し、プリントアウトして店舗に持っていくと、商品購入時にレジにて割引きされる。

クーポンは「値引き額」のみが表示された値引きチケットであり、商品価格は表示されていない。そのため、買い物に行ったその日にたまたま特売をしている目玉商品であっても、ありがちな「セール品は対象外」とはならず、クーポン分は必ず値引きされる。「特売」は店舗集客をしたいリテーラー(小売店)側の負担で行い、「割引クーポン」は主に商品を販売促進したいメーカー側の販促費用で行うためだ(小売店が集客目的で発券するケースもある)。

 

既存インフラの威力

このカタリナマーケティングジャパンのO2Oサイト「クーポンネットワーク」は、同社がこれまでレジ・クーポン事業で構築してきた「カタリナ・ターゲット・メディア」のインフラを利用した新たな試みである。

特筆すべきは、そのインフラネットワークの圧倒的スケールにある。このシステムが導入されているリテーラーは、イオン系列、イトーヨーカドー系列、ダイエー系列など、GMSとスーパーマーケット、ドラッグストアチェーン含めて実に37チェーン、5050店舗に及ぶ。この37チェーンの食料品販売金額の合計はなんと、日本全体の46・5パーセントをも占める。これらの店にレジ・クーポンプリンターが設置されたレジは約3万台。週間6500万人、1カ月あたり延べ2億7000万人の買い物客がこのレジを通過する。カタリナのデータベースは3ペタバイトというとてつもなく巨大なものだ。

独自のレジ・クーポンシステムを展開する企業は、コンビニエンスストアチェーン各社、TSUTAYA を運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブなどがあるが、それらと比べてもカタリナの規模とシェアは圧倒的だ。

米国カタリナマーケティングは、マーケティング・流通・POSスキャナ技術に関わる5人によって、1983年に生まれた。創業者たちは、実際の消費者購買行動に基づいたコミュニケーションが、従来のメディアより効果的であると考え、POSスキャナの利用により消費者購買行動に直接アクセスする方法を思いついたのである。

現在、アメリカ、イギリス、フランス、イタリア、ドイツ、日本の6カ国に展開している。

同社が日本法人を立ち上げたのは1999年。以後、レジ・クーポンシス

テムを展開してきた。2004年に米P&Gが提唱したショッパーマーケティングの考え方と重要性が日本のメーカーに認知されたことや、既存のクライアント企業がその効果を実感して、グループ企業にも導入を促進したことで、2009年頃から大手小売店を中心にレジ・クーポンシステムは大々的に広がった。ここ3年でスケールは倍増している。

 

特徴的なターゲティング手法

「カタリナ・ターゲット・メディア」が消費者購買行動に直接アクセスする方法とは、どのようなものか。

「当社のクーポンシステムでは、たとえば、幼い子どもがいる家族にはこのクーポン、富裕層にはこのクーポン、お年寄りのいる人にはこのクーポン、といったように、消費者の属性によって発券されるクーポンの種類を変えられます。これにはトランザクションとヒストリカルという2つのターゲティング手法を使っています。トランザクションはレジで顧客がそのとき買い物した商品をきっかけにクーポンを発券する仕組み。これは個人情報を必要としないのですべての顧客が対象です。ヒストリカルはFSPカード(ポイントカードなどの顧客カード)利用者を対象に、過去最長104週間の購買履歴に基づいてクーポンを発券する仕組みです」と、メディアソリューション事業部エグゼクティブディレクター、澤井真吾氏は説明する。

少し詳しく解説しよう。トランザクションはPOSスキャナでバーコードを読み込んだ際、買い物をした商品構成に連動してクーポンが発券される仕組みだ。たとえば「ビール6缶パック以上購入した人」、「冷凍食品を3つ以上購入した人」、「減塩食品を購入した人」などといった具合に、クーポンの発券対象者を選定する。

メーカーにとって、新商品の販売促進のための広告ツールとしてはもちろん、クーポンの発券期間中は1カテゴリーに対して1社独占の契約になるため、競合商品ユーザーから自社商品へのブランドスイッチを狙いたい場合や、自社から他社に流れてしまった離反ユーザーを取り戻したい場合にも有効だ。

さらに、「乳児用品を購入し、3000円以上の食料品を買った人」、「1本

1500円以上のワインを購入し、F1層(20才〜34才)向けの化粧品を購入した人」といったアンド条件設定も可能である。前者は「乳児がいて、この店舗をメインで使っている家族」をターゲットに、後者なら「高級志向の若い女性」をターゲットにした場合という具合だ。

もうひとつのターゲティング手法、ヒストリカルは、これにさらに時間軸の概念が加わる。たとえば、「過去26週間で男性用商品と低脂肪食品を購入した人」、「過去8週間で幼児向け用品(玩具菓子など)を購入し、午前中の購買金額が80%以上を占める人」といった具合である。前者は「肥満を気にしている男性」をターゲットに、後者は「子どものいる専業主婦」をターゲットにしたい場合に設定できる。

このターゲティングは、4つの時間軸と特徴的な12の購買パターンを基本にしている。それをもとにクライアントのニーズや目的に応じてカスタマイズするのだ。

この手法は「この商品を3個買ったら景品プレゼント抽選に応募ができる」などのマストバイキャンペーンの仕掛けにも効果を発揮する。1回目の購入で出すクーポンでは景品紹介とキャンペーン概要を強めに出し、2回目の購入時では「あと1個で応募できる」を強調し、3回目の購入では、「おめでとうございます。インターネットでこのPINコードを入力してください」と応募方法を明記するというふうに、3種類のクーポンを使い分けることで応募意欲を喚起することができる。

ヒストリカルのターゲティングを可能にするのは、各小売チェーンが展開するFSPカードだ。

イオングループならWAON、イトーヨーカドーグループならnanaco、ダイエーグループならハートポイントと、独自のFSPカードを発行しており、各社とも会員の購買履歴データベースを蓄積している。このデータベースを参照してクーポンを発券しているのだ。

2010年9月に発売した「キッコーマン いつでも新鮮 しぼりたて生しょうゆ」のケースをみてみよう。同商品を訴求したいターゲットは、醤油の味にこだわりがある顧客層だ。通常の料理で使う濃口醤油と刺身用にさしみ醤油を使い分けているような消費者が望ましい。そこで購買履歴から過去にさしみ醤油を購入したことのある顧客を選び、年末の刺身の売上ピークに合わせてアプローチした。トランザクションでなくヒストリカルを利用したのは、いま醤油を購入したばかりの顧客に醤油のクーポンを出しても、次の購入機会まで時間があきすぎて購買に結びつきにくいからだ。このアプローチの結果として、想定以上の成果を得ることができたという。

クーポンの集客力

リテーラーもカタリナ・ターゲット・メディアを活用している。そもそも全国37チェーン、5050店舗にもこのシステムが導入されている背景には、メーカーの販促のためのクーポンでも、それをきっかけに消費者が再来店するという、リテーラーにとって大きなメリットとなるその「集客力」がある。

2010年3月にシステムの導入を開始し、現在直営店とグルメシティあわせて300店舗以上にカタリナ・ターゲット・メディアを導入するダイエーは、店舗への再来店販促を目的とした施策を実施している。

ダイエーでは以前、再来店販促施策として、ハートポイントカードの優良上位会員向けに、値引きクーポンをDMで発送していた。だがこの施策は郵送費という大きなコストがかかるため費用対効果が高くなかった。

そこで、毎週日曜日しか利用しない顧客に対して平日に来店すると得をするクーポンの発券や、食料品しか買わない顧客に衣料品・生活用品を買うと得するクーポンの発券など、カタリナ・ターゲット・メディアを活用し、購買履歴ターゲットを絞ったさまざまな施策をとったところ、顧客の再来店頻度が明確に向上。導入以前と比較して、1人当たりの来店日数もアップした。レジ・クーポンならば郵送代がかからず、1人にアプローチするのにかかるコストは格段に下がった。

イオングループが集客に使ったのは、「わくわくデー」、「火曜市」、「お客さま感謝デー」などのイベント日の認知度アップだ。

その具体策は、たとえば「火曜市」に2000円以上の買い物をした顧客に、

さらに翌週の火曜日までに使える100円引きクーポンを発券し、そのクーポンを使ってまた2000円以上の買い物をすればさらに翌週の火曜日まで使えるクーポンを発券するといった施策。それを新店オープンから継続実施した結果、約半年後には火曜市の客数と客単価を、既存店なみに引き上げることに成功した。また、イオンのプライベートブランド「トップバリュ」のロイヤリティを高めることを目的とした施策も実施している。

 

精緻なターゲティングの効果

「レジ・クーポンによるソリューションは単に『値引き券による販促』と捉えられがちですが、私たちの考え方は違います。レジ・クーポンはロイヤリティマーケティングツールになるのです。いかにブランドにとって親和性を持ってもらえるロイヤルカスタマーをつくっていくのか。そのひとつのツールとしてレジ・クーポンがあり、またO2Oのクーポンネットワークがあるのです」(澤井氏)というように、その日の購入データと過去の消費行動をすべて把握している時点で、他のどのメディアにも取ることができない詳細なターゲティングが可能であり、そのデータに基づいた質の高いマーケティングが可能なのである。

ウェブ上ではAmazon が実現しているマーケティングと近いことを、リアル

でカタリナが実現していると考えてもいいかもしれない。

また、想定購買者と実購買者のギャップを測ることにも有効だ。たとえば、想定購買者はF1女性だったが、レジ・クーポンで実購買者のデータをとると、想定よりも高齢の女性が多い、といったことが他の購買商品からわかってくる。

あるいは、高級外車に乗る高額所得者も、肉体労働者も、中高生も、コーラを購入する。それぞれのライフスタイルはまったく違うが、そのなかでも購買行動の共通項が見えてきてコーラ消費者に共通に響く訴求ポイントがわかってくる場合もある。このように、レジ・クーポンの利用結果をマーケティングや商品開発

にも生かすことができるというわけだ。

 

メディアとしての店舗活用

また、12年夏からは、メーカーやリテーラーによる商品値引きクーポンだけではなく、さまざまな企業がこのレジ・クーポンシステムを広告媒体として活用する展開も見えはじめた。

「プリンターをカラー化し、表現力が上がったことで、カタリナ・ターゲット・メディアは詳細なターゲティングができる非常に有効な屋外広告として使えるようになりました。簡単な例でいえば、自動車のディーラーが8人乗りミニバンの新発売にともない、フェアの告知と集客をしたいとします。ターゲットは大人数のファミリーですから、それに当てはまるであろう買い物をした顧客にクーポンを発券する。たとえば、幼児向け商品とお年寄り向け商品を購入した場合、おそらく三世帯で暮らす家族ですから、ミニバンの潜在顧客に当てはまりますね。その人たちに期間中の福引き券や来場者プレゼントなどを印刷したクーポンを配布する。すると効果が上がるわけです。

あるいはスポーツカーの販売キャンペーンなら、富裕層の男性単身者または若くて子どものいない夫婦がターゲットになります。たとえば高級ワインとトクホ(特定保健用食品)と黒毛和牛を買ったお客、というふうにターゲットを設定できるわけです」(澤井氏)

値引きクーポンでは配布エリアやリテーラーの指定ができないが、広告ではエリアや店舗の指定ができる仕組みになっている。地域の企業にとっては、すでに効果が出にくくなっているポスティングや新聞折込広告、地域フリーペーパーとさし代わる、非常に効果的なメディアになる可能性がありそうだ。

 

カタリナのO2O

そんなカタリナマーケティングのO2Oの試み、「クーポンネットワーク」が、カタリナ・ターゲット・メディアの一部としてどのように機能するのかを考えてみたい。

「次回買い物時に20円オフ」という従来のレジ・クーポンは、オフラインからオフラインのマーケティング手法であり、オンラインは介しない。それに対し、クーポンネットワークは、オンライン上のサイトで消費者が見たクーポンをプリントアウトし、店舗に足を運んで購入させるわけなので、純然たるO2Oである。

オンライン上で見つけたクーポンをプリントアウトして店舗に持っていくと、割引や値引きが受けられるというシンプルな仕掛けは、現状のO2Oモデルとしてはまさしく王道であろう。だが、そうは言っても成功者は「ぐるなび」や「ホットペッパー」などごく一握りである。これらは「いい店を見つけて、予約する」という必要に迫られたニーズを満たしながら、値引きやサービス券がついてくるという複数のメリットがある。

店舗側が自社のウェブサイトでそうしたクーポンを発行しているケースも多いが、SEO対策やウェブ広告に費用をかけられず、サイトが一般の人の目に触れにくい小規模のサイトでは、そもそもの顧客数が少ないうえに、すでにロイヤルカスタマーである顧客ばかりがクーポンを利用し、新規顧客の獲得や離反客の呼び戻しなどといった、本当の目的は果たせていないケースがほとんどだ。自力でクーポン型のO2Oを仕掛ける場合は、相当の顧客数と資金力が必須であろう。

クーポンネットワークは2012年12月時点では「まだ試験的に運営しており、仕様やシステムが固まり次第、ユーザーへの告知を積極的に行っていく」という段階であることもあり、一般への知名度はまだ低い。

 

O2O正否の3条件

では今後本格起動したとして、果たしてこのO2Oモデルは成功しうるのだろうか。

こうしたO2Oモデルが多数のユーザーに頻繁に利用されるためには、次のようなハードルをクリアする必要があるだろう。

① サイトが多くのユーザーに認知されている

②ラインナップが多数ある

③商品(クーポン)が魅力的である

O2Oモデルがなかなか成功しないのは、これらを同時に満たすことが難しいことにある。

まず①のいかにしてオンラインでサイトに集客するかだが、一般的にはこれが最も資金がかかり、難しいハードルだ。だがカタリナマーケティングにとっては、難しいことではない。

なぜなら、3 万台のレジを毎週6500万人が通過するというユーザーとの強力なタッチポイントがあるからだ。極端に言えばすべての顧客に告知をすることもできるが、まずは「レジでもらったクーポンを使って商品を安く買う」という消費行動に慣れたユーザーに、「たくさんの商品のクーポンが揃っています」という「クーポンネットワーク」を告知するクーポンを渡せばいい。しかもスーパーマーケットを普段使いで利用する顧客は週に何度もレジを通過するため、何度でもアプローチでき、刷り込み効果も出せる。

また、他のサイトからの導線として現在、日本最大級のチラシサイト「Shufoo!」(ユニークユーザー数401万人/月)、雑誌「サンキュ!」のクチコミサイト「口コミサンキュ!」( 88万人/月)との提携を結んでいる。今後、誘導施策を進めていく。

②のラインナップだが、前述の通りクーポンの総数は48クーポン(2012年12月22日時点)。自分が利用する店舗を選択するとここから減るため(たとえば筆者の選択した店舗では26クーポン)、楽天やヤフーオークションなどのサイトに慣れているユーザーには、多くは感じられないだろう。この数は今後どんどん増えていく予定だというが、1カテゴリーに対して1社独占の契約があるため、数百、数千というふうに爆発的に増えることはないはずだ。だが、「現状でも決して少ないとは思っていません。日本中で、いつものスーパーで1個単位から値引きが受けられるクーポンサイトはクーポンネットワークしかありません」と澤井氏は力説する。

③の商品の魅力は、個人の消費スタイルに左右される。たとえばある程度の収入があるひとり暮らし男性など、お金に余裕がある人にとっては、インターネットでサイトにアクセスし、10円20円引きのクーポンを選んで印刷して店に持っていく行動を、面倒だと感じる人が多いだろう。

しかし、特売チラシを毎日チェックして日々の生活費を少しでも抑えたいという主婦は多い。子どもの教育費や将来のための貯金をするためにコツコツとやりくりする主婦にとっては、その特売価格からさらに10円20円安くなるクーポンサイトは、とても魅力的に感じるはずである。

「店を出るときにもらうレジ・クーポンをチェックアウトクーポン、ウェブで探してプリントアウトするクーポンをチェックインクーポンといいますが、特性が違います。チェックアウトクーポンはもらうだけなので入手する手間はかかりませんが、自分の欲しくない商品のクーポンをもらってしまう可能性がある。一方、チェックインクーポンは手間はありますが、欲しいクーポンを自分で選ぶことができる。このそれぞれの特性を上手く組み合わせることで、ユーザーにとってより便利でお得になり、カタリナ・ターゲット・メディアは有力なマーケティングツールになるのです。さらに今後、スマートフォンを含むモバイル、ソーシャルメディア、Eメールなどのタッチポイントを利用していきます」(澤井氏)

その意味で、カタリナのO2Oはクーポンネットワークサイトに終わらない。

オフライン(店舗)で得たクーポンからオンラインに誘導され、チケットを持ってまた店舗へ戻る。そうした顧客に対して再びオンラインに誘導するアプローチも可能である。オフラインとオンラインが連鎖して消費者と深くつながっていく。そのプロセスのなかで、ロイヤルカスタマーがつくられる。

これが、これからの広告メディア、販促ツールの条件となってきそうだ。