流行タームで追うIT業界
ITなう
犬の一生は人間の7倍の速さで過ぎる。生後1年の子犬は、人間でいえば7歳。2年で14歳。10年も生きればもう老犬だ。IT業界の進歩もまた、他の業界に比べると非常に速い。それを犬にたとえて「ドッグイヤー」と表現したのは90年代のことだが、すでに死語になりつつある。
ドッグイヤーよりもさらに加速した「マウスイヤー」という言葉も登場したが、二番煎じの宿命か、さほど人口に膾炙する暇もないうちに廃れてしまった。IT業界の変化はさらに速くなっている。
パソコン(パーソナル・コンピュータ)は、かつてマイコン(マイクロ・コンピュータ)と呼ばれていた。マイクロプロセッサを使用したコンピュータという意味では、現在のパソコン(PC)となんら区別はない。違いはハードウェアそのものではなく、使う人のなかに存在する。それまでのものとは違うんだよ、と新しさを主張するときに言葉が生まれ、新語が受け入れられて定着したときに死語が生まれる。
「ネットサーフィン」が古くなって、「ググる」がより新しく時代にあったものとして使われるようになったのは当然の推移だったが、「ググる」だっていつまで言葉としてとどまれるかはわからない。検索エンジン文化が衰退すれば、いや、そもそもネットだって今と同じままとは限らないのだ。音声入力が一般的になった時代に、キーボードは残るだろうか。そもそもキーボードとはピアノの鍵盤を指す言葉ではなかっただろうか。
変化の激しい業界で働くのは容易なことではない。常に新しい情報をキャッチアップし、古くなった知識と入れ替えていかねばならない。ふと振り返れば、そこには累々たる死語があふれている。だが、それは自分の生きてきた足跡でもあるのだ。
ポケベルがあって、PHS(ピッチ)があって、デジタルホンに、IDOに、ツーカーに、DDIポケットがあった。J‐PHONEがボーダフォンに代わって、今の学生はiPhone のソフトバンクモバイルしか知らない。iPhone やiPod touch を指してPDAと言ってみても嫌味な薀蓄と受け取られるのが関の山だ。
だが、死語だってかつては確かに生きていたのだ。たまには思い出して供養してやるのが、今を生きるものの務めではないだろうか、なう。