日本発SaaSは世界のクラウドを目指す〜ソフトウェアベンダーの可能性

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海外で発揮される日本企業の強さ

買う側にメリットがなく、売る側にインセンティブがない。

日本のクラウドをめぐる状況は閉塞感に覆われています。では、SaaS開発を行っている日本のソフトベンダーはどうしたらいいのか。海外展開がそれに対する答えだと思います。

海外、特に中国です。

中国の成長は著しいものがありますが、成長する体に血管が追いついていない状況です。クライアントサーバシステムなど、中国にはほとんどありません。アフリカでは固定電話が広まらずいきなり携帯電話による通信が普及しましたが、それと同じことが中国のITの世界で起こっています。いまから自分達でシステムをつくっても成長速度に追いつかないために、できあいのものをネット上で使えるクラウドが受け入れられる可能性が高いのです。

資産をもたなくていいのはその通りですし、元々自社内にサーバを持っているわけではなく、そのため、日本の中小企業でメリットにならなかったものが、中国の企業ではメリットになりうるのです。

なにより、市場の大きさは魅力です。日本では100社が使っていればそれなりの普及度といえますが、中国では100社なんて数字はどこも使っていないのと同じことです。

1万社、10万社でないとカウントすらされないのです。

「中国でソフトウェアを展開するとコピーされる」と心配する声もありますが、

10倍コピーされてもマーケットが1000倍あれば進出の価値があると考えるべきです。資金回収できないという人もいますが、売り掛けが100倍になっても売上が1万倍になれば利益は出ます。それをやらないとしたら、閉塞した日本の中で生きるしかありません。

日本のソフトウェアベンダーに問われているのは、どちらを選びますか? という選択なのです。

もちろん、中国市場を狙っているのは日本企業だけではありません。すでにマイクロソフトもドイツのSAPも入り込んでいます。しかし、マーケットが大きいのでまだまだ開拓余地は残っています。

世界の企業に採用されているマイクロソフトのCRMソリューション「Dynamics」は中国でもかなり売れていますが、それでも巨大なピザ(市場)の端をひと口かじったくらいにすぎません。ピザはまだまだあまっています。ただ、この瞬間にも彼らはシェアを広げるために攻勢をかけています。

マイクロソフトだけではありません。中国の現地企業もあります。今入っておかないと手遅れになるのは、誰の目にも明らかだと思います。

常盤木の所属する東洋ビジネスエンジニアリングは、日本のお家芸であるものづくり企業への基幹システム提供を強みとしています。従来の開発費をいただいてのシステムインテグレーションを軸足としつつも、こうした海外ベンダーの動きを睨み、日本ならではの強みを活かした原価管理のシステムをSaaSとして、日本のデータセンターから海外に対し提供しています。今はまだ、現地企業ではなく、中国に展開する日系製造業が中心ですが、仕組み仕掛けとしては、「日本発、世界へ。」を掲げ、どの国のどの様な企業にも提供できるようになっています。

どの国に進出するときにもいえることですが、中国では特に現地の流通や力関係を抑える動きが重要です。1社だとなかなかスピードが上がりませんし、コネクションをつくるのが難しい部分があります。そこで、団体として進出を支援しているのがMIJSなのです。

MIJSはソフトウェアベンダーのコンソーシアムですが、よくある弱者連合的なものではありません。正会員には、特定分野においてトップクラスか、それに準ずるシェアを持つトップベンダーが集まっています。また、準会員にはNTT

コミュニケーションズやNECなど、本当の意味での有力企業が集まっています。もちろん、こうした有力企業だけでなく、ベンチャー企業も参加が可能な組織になっています。

いくつかの成果も出始めています。MIJSは成都市および成都市のソフトウェア業界と提携を結びました。現地のデータセンターを活用し、現地の人材を採用し、現地の企業と提携してローカルに売る形で進めています。中国だけでなく、

台湾のソフトウェア協会との交流も本格的に始まりました。

日本のソフトウェアのクオリティが高いのは、間違いないと思います。「日本品質」とは海外でもよく言われることです。

たとえば、ある計算ソフトで画面の右下がピンクになる現象が出たとします。計算結果に影響はありません。海外の感覚では、計算結果はバグじゃないから関係ないとなります。

しかし、日本企業であれば原因を究明し、改善を施します。こういった細かさや精緻さを求められる領域に日本は強さをもっているのです。

岩本の所属するウイングアークテクノロジーズは、日本で帳票ソフトのシェアを50%くらいもっています。日本でなぜわれわれのソフトが売れるかというと、罫線の角にアールがついていたり、一行ごとに色が変わっていたり、細かい部分でユーザビリティを追求しているからです。

問題は中国の企業がこういったクオリティを必要とするかどうか。日本のソフトウェアのクオリティを、文化的に受け入れるかどうかということです。正直なところ、これはやってみなければわかりませんが、未開拓のマーケットの大きさを考えれば、チャレンジする価値は大いにあると思います。

原口一博氏が総務大臣だったときに出された「原口ビジョン」では、2015年までにクラウド系で2兆円のマーケットを国内につくることになっています。政府から、クラウドを使う企業に金がばらまかれるわけです。しかし、ヨーロッパは90年代に同じような保護政策をとって、国際競争力を落としてしまいました。いまは内需拡大ではなく、むしろ国境を超えていくチャンスをソフトウェアベンダーとして活かしていくことがとても重要であると思います。

閉塞している日本ではなく、海外のマーケットをどれだけ開拓できるか。ここに日本のクラウドビジネスの将来がかかっていることを、政府も企業ももう一度考える必要があると思います。

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