ソーシャルメディアの巻き込みと絞り込みがコンテンツ流通を促進する②〜 他メディアにコンテクストを生成するメディア

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「人のつながり」で情報価値を高める

 

ソーシャルメディアによる情報可視化、2つめのポイントは「親密軸」、つまりソーシャルグラフの親近感や信頼性を使って情報価値を高めるアプローチだ。

例えば大型書店で、「店員のオススメ」本がいくら飾ってあっても、尊敬する先輩や上司による「この本は読んでおけ」という推薦には敵わない。

ツイッターを利用していても、フォローしている友達、全員が同じ店や新商品の話題で盛り上がっていれば、それが気になるはずだ。

流行しているソーシャルゲームも、親密軸を加えることでゲームの価値を高めたわかりやすい事例だが、それに加えてアマゾンやiTunes、グルメサイトのレビューなども加えていいかもしれない。情報の発信者が誰かを知らないでも、書いている内容や文体に親近感が持てれば、大きな後押しとなる。

こうした親密軸で情報を広めるアプローチでもマイクロ化が起きている。フェイスブックの「いいね」ボタンがいい例だろう。最近ではブログの記事でも、iPhone のアプリケーションで読むNew York Times の記事にも、iPhone でプレイするゲームの最終スコア画面にも、必ずといっていいほど、それを「いいね」したり、ツイッターにヒトコト書き加えてつぶやく機能が用意されている。

 

「場所」で情報価値を高める

 

情報可視化、3つめのポイントは「空間軸」つまり場所情報を加えた情報価値の高め方だ。

出張中、ツイッターで地名を入れてつぶやくと、それまであまり交流のなかったフォロワーから「そこは私の実家のすぐ近くです」や「近くに美味しい店あります」といった具合に返信をもらうことが多い。人は自分とゆかりがある場所の情報には関心を寄せやすい。

この「空間軸」のアプローチは、iPhone に代表されるスマートフォンの普及で、急速に注目され始めた軸だ。

2010年、特に注目を集めたフォースクエアという位置情報サービスでは、自分が今いる施設やお店にチェックインすると、同じ場所にいる友達がわかったり、その場所に関連したクーポンや役立ち情報を見ることができたり、次回、そこに戻ってきたときにやるべきことの備忘録を書き込むこともできたりする。

地域のニュースを発信しているインターネットのニュースサイト、「みんなの経済新聞」では、ニュース記事一つひとつに、話題になっている場所の位置情報が埋め込まれており、セカイカメラを使って街を覗くと、ニュースで話題になったその場所に、そのニュースの記事が現れる。ニュース記事は、普通、時間が経てば価値は落ちてしまうが、このように空間軸をうまく利用すれば、過去記事に、まったく新しい価値を与えることもできる。

さらなる「絞り込み」へ

 

ここまでで紹介した3つの軸は、どれか1つだけ採用すればいい、というものではない。2つ、あるいは3つをうまく組み合わせて、さらに価値を高めることもできるはずだ。

例えば、良くも悪くも話題となったクーポンサイトのグルーポンは、東京版、大阪版といった具合に都市ごとに展開を分けることで空間軸で絞り込み、その上で、ツイッターなどの親密軸を使って情報を広め、さらに1つのクーポンの販売期間を1日だけにすることで時間軸的にも情報の価値を高めている。

ちなみに時間、親密、空間という3つの軸は、筆者が長年考えて思い至った、万人に効果があり、広いモノに応用が利く基本的な軸だが、コンテンツ価値を高めるための絞り込みの軸は、まだ他にもあるはずだ。例えば年齢、性別による絞り込みや、富裕層向けなどの経済基盤による絞り込み、業界業種による絞り込みなども応用が広い。

こうした絞り込みは、コンテンツだけでなく、メディアの価値も高めるのかも知れない。ツイッターは文字数を絞り込むことで、コミュニケーションの質を高めて人気を博した。一方、フェイスブックは実名でのリアルな人間関係に絞り込んだことで、質の高い交流を実現し、日本でも急速に人気を伸ばしてきている。

 

絞り込みはさらに進化する

 

東日本大震災の最中、米国ではツイッターが爆発的にヒットするきっかけにもなったS×SW(サウス・バイ・サウスウェスト)というイベントが開催され、いくつか新しいソーシャルメディア系サービスが誕生した。

安否の確認に便利と、すぐに日本でも話題になった「Beluga」はリアルタイムでのグループ対話と位置情報の共有が目玉になっている。「ditto」はこれからやろうとしている事柄についてつぶやくリアルタイムより半歩先の時間軸に焦点を絞っていて、どちらも基本3軸を感じさせる。

さらに話題になったのが「Color」というスマートフォンのみをターゲットにしたサービスだ。起動すると写真を撮るように促され、その写真が近くにいる人と完全にパブリックなカタチで共有される。例えば野外ライブ会場などでColor を使っているユーザーが大勢いると、会場の雰囲気をいろいろな角度の写真で楽しめることになる。

一方、セカイカメラで有名な日本の頓智ドットも「domo」(※)というサービスを発表し、注目を集めたが、これも今、自分の周辺に居合わせた人達とリアルタイムでの会話を楽しむためのものだ。例えば駅で事件などが起きて人だかりができた時、まわりに「domo」のユーザーがいれば、「何が起きたのか」といった情報を見ず知らずの者同士で話し合える。

注目の2サービスが、空間軸と時間軸で、これまでよりも、さらに一段絞り込んできたのは興味深い。これも多くの企業が、今後、さらなる情報の絞り込みが重要と直感しているからかも知れない。ホースの口を絞って水に勢いをつけるようにすれば、情報大洪水のなかでも情報を目立たせられる、ということなのだろう。

なお、時間軸もどんどんリアルタイムに近づき、空間軸が指す範囲もどんどん狭まるなか、まだ絞り込む余地があるのは親密軸だろう。

大半のソーシャルメディアは、サービスの利用期間が長くなれば長くなるほど友達の数が増え、情報の質が下がる傾向にある。今後は、これを食い止めるべく、人数制限や利用期限付きの友達登録といったことも始まるかも知れない。この分野で先行しているのはやはりフェイスブックで、ハイライトという機能では友達が発する情報をかなりうまく間引いて表示している。あまり興味のない友達の発言は非表示にしてしまう機能もある。

さまざまな軸を使って情報の価値を高めることができるソーシャルメディアは、今後、さらに有力なコンテンツ流通のプラットフォームとなっていくはずだ。そんななか、既に膨大なコンテンツの蓄積を持つ従来型のメディアが、この新しい流通プラットフォームといかに親和性を高めていくかは興味深いところだ。

冒頭で紹介した震災直後のテレビのUstream の事例は、そうした新しい時代を象徴する出来事なのかも知れない。

 

※ 商標侵害で訴えられ現在、一時、配布停止中

この記事は『IT批評 VOL.2 ソーシャルメディアの銀河系』(2011/5/20)に掲載されたものです。

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