ソーシャルメディアの巻き込みと絞り込みがコンテンツ流通を促進する①〜 他メディアにコンテクストを生成するメディア

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情報も「量」から「質」の時代へ

 

「巻き込み」は、今後、さらに重視されるべきコンテンツの提供の仕方の一つだ。

総務省が2009年に発表した報告によれば、12年前の1997年とでは、消費者が受け取る情報の量は637倍にまで増えたという。我々は気づけば情報大洪水時代に突入している。そんななか、これからは情報の「量」よりも、より少ない情報で満足を得る情報の「質」を重視する傾向が加速するはずだ。

では、「質」が高い情報とは何かというと、受け手にとって「価値」が高い情報、より「関心」が持てる情報となる。

問題は、受け手一人ひとりで、関心事は異なり同じコンテンツでも価値の感じ方が違うことだ。この選択肢が膨大にある時代、万人を同時に満足させるコンテンツはないのだ。

従来のマスメディアでは、情報の発信元の数に制約があったため、できるだけ大勢の人を満足させる最大公約数的なコンテンツの提供が重要だった。しかし、携帯電話や部屋ごとに置かれたテレビ、パソコンといった個人用メディアが普及した今日では、こうした最大公約数的な「質」では満足できない人が増えているのだ。

彼らが求めているのは、より自分自身で関心が持てる情報だ。この傾向を助長したのが、1990年代後半以降の「検索」サービスの台頭だろう。

インターネットで誰もが情報を発信できるようになり、情報の大爆発が起きたとき、「検索」サービスが、個々のユーザーが関心事をかき集めることを可能にした。一人ひとりが欲している情報を自ら取りにいくプル型のコンテンツ流通が広がった。

しかし、24時間、常に関心のスイッチをONにして、意欲的に情報を集め続けられる人はいない。時には、ただ流れてくる情報を受動的に受け取り、新たな出会いや発見(セレンディピティ)をしたいニーズもあるはずだ。

インターネットでは、常に大量な情報が流れ続けてはいるが、その量があまりに膨大すぎて、逆に一つひとつの情報が見えにくい。そんななかで、受け手にとって関心の高い情報を浮き立たせてくれるのが、ソーシャルメディアだ。

以下では、ソーシャルメディアが情報を浮き立たせる3つの側面を検証したい。

 

「時間」で情報価値を高める

 

ソーシャルメディアによる情報可視化のポイント、1つめは「時間軸」による可視化だ。

人間はよりリアルタイムに近い新しい情報に関心を寄せやすい。テレビ番組にしても、面白そうな番組と思って録画した番組はなかなか見ず、「面白い番組がやっていない」と文句を言いつつ現在、放送中の番組は見てしまうところがある。

ブログに端を発するソーシャルメディアは、それまで重宝されていた時系列での情報の羅列に一石を投じ、もっとも新しいコンテンツが一番上に表示される、という逆時系列の重要さを広めた。この逆時系列での情報一覧はツイッターや最新のソーシャルネットワークにも引き継がれている。

ツイッターがヒットして以降、多くのソーシャルネットワークが140文字前後でつぶやく機能を追加しているが、これも時間軸を強化する側面がある。

ブログではどうしても1つの記事を書くのに数分から数時間かかってしまうため、最新記事であってもリアルタイムにはほど遠く、「渋谷なう」とブログに書くことはナンセンスだ。しかし、情報を「つぶやき」という単位にマイクロ化(小型化)したことで変化が生まれた。最大でも140文字なので、タイプが遅い人でも数分もかけずに書くことができ、「渋谷なう」が成り立つどころか、それを見た人が「それじゃあ後で合流しよう」とつぶやき返して、実際に人々の行動を変える可能性まで出てくるのだ。

携帯電話が普及したことで、リアルタイムのニュースを、伝えたい瞬間にツイッターやソーシャルメディアを見ていない人に伝える方法も確立されてきた。携帯メールやスマートフォンの通知機能だ。

グミという携帯電話でテレビ番組を見ながら語り合うサービスがあるが、番組が始まる直前に携帯メールで通知をするしくみを取り入れたところ、利用率が急増したという。

iPhone/iPad で展開するタイムセール販売事業者のGILT は、セールの開始時間になると、そのことをノティフィケーションという機能で知らせている。スリープ状態のiPhone/iPad からも「ポーン」という音がして、画面に「セール開始」の文字が現れる。

もっとも、ノティフィケーションは使いすぎると、迷惑化し、ユーザー側に機能をOFFにされかねない。できるだけ通知頻度を下げ、待ち遠しくなるくらいのタイミングで期待を上回るような情報提供を行う方が堅実だろう。あるいはあらかじめ予測可能な周期を公にしておくだけでも安心感につながる。

 

※この記事は『IT批評 VOL.2 ソーシャルメディアの銀河系』(2011/5/20)に掲載されたものです。

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