アパレル系ECサイトが示すユーザーコミュニケーションの意味〜ヤングレディース向けブランド、サルースの取り組み

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ストーリー訴求の変化

本稿の冒頭で、ECサイト上での商品選びは、商品写真のほかには素材、サイズなどのスペック表示が基本となると述べた。サイズなどの表示方法が、数年前に比べて充実する傾向にあることは、アパレル系ECサイトを利用したことのある者なら周知の事実だろう。より詳細なスペック表示は、データ的な判断基準が有効になる数少ない点であるから、当然の流れである。

しかし、ことアパレル商品で考えると、商品購入について、消費者が最重要視するのはデータではない。むしろ、データ以前に購入が促され、その後、データによる最終判断が行われるとみるのが自然だ。

データ以前に商品購入を促すものとは、可視化の難しい商品ストーリーや、ブランドストーリーである。そうした情報をユーザーに提供するものとして、各アパレルECサイトが強化しているのが、商品写真などのビジュアル表現である。

ECサイトにおける商品写真が訴求するストーリーを、実店舗におけるストーリー訴求との比較で考えてみたい。木下氏の意見を聞いてみよう。

「店頭では、3体ほどのマネキンに、打ち出し商品を着せ、入り口付近にシーズン商品を並べることによってストーリーを訴求しています。一方、サイトではモデル着用画像やテキストを多用することで、より五感に訴求するような取り組みをしています。

店頭では、スペースの関係上、提案に限りはありますが、サイト上では無限に提案が可能となることが、ストーリー訴求の点で優位であると考えています。お客様には、より自分に合ったライフスタイルを実感してもらえるのではないでしょうか」

実店舗では、マネキンが着用した1パターンのみの商品の着用例が、サイトであれば、着用例のビジュアルの点数を増やすことで複数パターン可能になる。セグメントの異なるユーザーに、同時に商品ストーリーを訴求することも難しいことではない。同一商品のTPOの異なる着用例についても、同様のことがいえるだろう。

価格とストーリーのバランス

ECサイトの優位点はこれだけではない。

ECサイトは、チラシ広告的な商品比較と、店舗的なストーリー訴求の中間に位置するものだからだ。

ECサイトでは、同時に複数の商品を容易に比較することができるだけなく、

他ブランドとの比較も簡便である。この点が、他ブランドからの顧客横奪を促進していることもあり、企業側からは決して歓迎できることばかりではないが、店舗的なストーリー訴求の充実による差別化を進めることを促してもいる。

もちろん、商品比較を容易にしていることは、コモディティ化した商品により激しい価格競争を強いていることも見逃すことはできない。

「ECサイトで売上を伸ばすためには、価格訴求から入る場合が多いと思います。そのうえでサイトの特徴、強みを明確に出すことにより顧客獲得をしていくトレンドにあります。サルースのお客様層であれば、いかに『カワイイ』と感じてもらうかが、ストーリー訴求の最重要点です」(木下氏)

ユーザーがECサイトにおいて、価格とストーリーのどちらを重視しているかがわかりづらいのは当然のことである。

「安いだけでも駄目、『カワイイ』だけでも駄目、安心感は当たり前ということで、安心感があり商品に対してお値打ち感が得られるバランスが大事なことだと思います」(木下氏)

このバランス感にいかに照準を合わせていくか、また、バランスについてのユーザーの感覚にいかに同調していくかは、実店舗における顧客とのコミュニケーションも含め、ユーザーコミュニケーションしか手法はない。コモディティのなかに、どのようなストーリーを加味できるかのヒントはユーザー側から得るしかないためである。

「コモディティ化による価格競争にいかに対抗するかは、やはり、いかにブランディングを固めるかにつきると思います。それはイメージであり、価格であり、品質であり、サービスをよりいいものにしていけるかという当たり前のことを続けていければ、ある一定のブランド力が保たれると思います。

何故サルースで買ってくれるのか?をレビューなどで見ると『安くて、カワイイ商品がたくさんあり、問い合わせにも丁寧に答えてくれて安心して買えるから』という意見が多いです」(木下氏)

ユーザーの求めるコミュニケーション

ユーザーコミュニケーションを進化させているのはECサイトである。

サルースでは、実際にどのようなユーザーコミュニケーション施策をうっているのだろうか。

「ユーザーとのコミュニケーションと一口にいっても、さまざまなことが考えられます。

ECサイトのお客様に対しても、レビュー、ブログ、SNSなどクチコミを促進するものから、サルースでは週5回発行しているメールマガジン、挨拶状、ロイヤリティの高いお客様を対象としたクーポン、お問い合わせ対応、さらに配送用の包装、配送方法や支払い方法の多様化など、ユーザーとの接点は無数にあります。

サルースで特に力を入れているのは返品がしやすい店舗であることです。その理由は買い物時の不安を取り除くためです。施策としてはサイト内告知と商品にわかりやすい返品説明書を同封します。それにより実際の返品率は3~4%で決して高くなっていません」(木下氏)

ユーザー側のリスクヘッジとして、返品は最大の効果がある。企業にとって負担は増すが、返品可能であることをユーザーに周知徹底することが、かえってユーザーからの返品を減らしている実情は、ユーザーに対するブランドの信頼感を担保し、ブランドの自信を見せることでストーリー訴求をも担っているからとみてよいだろう。

こうしたユーザーコミュニケーション施策を通して獲得した顧客を、ロイヤルカスタマーにしていくことが、ECサイト運営の肝となってくる。

顧客のリピートは何によって支持されているのだろうか。

「まずは(商品と、商品がもつストーリーが)自分好みであるかどうかが重要なのはいうまでもありません。そして最初に購入した商品に対する満足感が高ければリピーターとなると考えています。その後はメールマガジンなどのコミュニケーションが大きなポイントです。

お客様が求めているものは、やはりかわいい商品を買って友人や彼氏、家族に誉めてもらうことに尽きると思います。また買った商品をブログやSNSで勧め、共感してもらうことでさらに満足感は高まります」(木下氏)

ユーザーが商品購入を通して求める帰属、承認の欲求に応えること。特に女性消費者の仲間内でのコミュニケーションにどのように貢献できるかは、ユーザーコミュニケーションを促すうえでも、最も注目すべきことであるようだ。

女性消費者がアパレル商品に求めると考えがちな「個性」をどのようなものと捉えているかにも留意がいる。ヒット商品の動向などから、その点が垣間見える。

木下氏はこう述べる。

「人と違う個性よりも、憧れている人や仲間と同じものを身に付けたいとする傾向が強いと思います。サイトでは何が売れているかなど楽天やアマゾンなどのランキングでわかるので、ランキング上位商品や、好きなブロガーの勧める商品は爆発的に売れる場合があります」

ユーザーの求めるものが、コミュニケーションに寄与するものであることがよく見える状況といえるだろう。

ECサイトの定着によって、「かわいい女性が増えてきた」と木下氏は語る。

「まずはインターネットの普及で情報量が圧倒的に増えたことと、アパレルの商品価格が非常に低下したことにより自分を磨きやすい環境ができたのではないかと思います。

また、年相応という概念がなくなり、いつまでも好きな自分でいたいという考えが強くなったからではないでしょうか」

アパレル系ECサイトが、女性の生活に大きな変化をもたらしていることは間違いない。そのうえで、キーとなるポイントがコミュニケーションの充実にあることは、本稿でこれまで見てきた通りである。

最後に、木下氏にサルースの姿勢について伺った。それをもって本稿を閉じたい。

「ひとつの例を挙げますと、以前足の大きいお客様から『25・5センチ以上で安くてかわいい商品がないので困っている』というメールをいただき、調べてみると確かに低価格でファッション性の高い商品はあまりなく、であるならば、そのように困ったお客様がたくさんいるのではないかと仮説をたて、人気のある商品で大きなサイズ展開を試みたところ予想以上に販売できたという経験があります。それ以後、大きなサイズは定番化して一定の顧客を得ることができました。

それだけではありませんが、きちんとお客様とコミュニケーションして、できる限り応えることがサルースの仕事だと考えています」

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