マルティン・ルターからワエル・ゴニムへ
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2013.04.16
バックミラー越しの未来
現在も中東の変化を生み出した情報とコミュニケーションの流れは、軍事独裁政権や大国をも脅かしている。中国は、革命の飛び火を恐れ、中国版ジャスミン革命に関わったとされるネット活動家たちを拘束した。すでに中国は、それ以前から巨費をかけて情報統制しなければ、国内の秩序を容易に保つことはできない状態であった。
30年以上続いたムバラク政権を退陣に追い込んだエジプト革命の過程の2011年2月7日に、Google 社員のワエル・ゴニムが解放された。ゴニムは、「エル・シャヒード(殉教者)」というユーザーネームを名乗りFacebook 上でデモを鼓舞するファンページを管理していたが、運動の最中に当局に拘束された。だが拘束後もそのファンページは同じく「エル・シャヒード」を名乗る複数の後継者に引き継がれていた。
解放されたゴニムは、エジプト革命を象徴する人物としてタハリール広場で祭りあげられた。ゴニムは、党などの政治的中心を欠いた、ネットワーク状のデモが成し遂げた革命にふさわしい人物であろう。だが革命を担った当事者たちさえもが自らが行っていることを理解していないのかもしれない。
というのもグーテンベルク系の革命を象徴するルターは、神の教えに忠実な生活を求めたにすぎなかった。だが、彼はまったく意図しなかった世俗化した未来をつくり出すことに一役買ってしまった。
マクルーハンが「バックミラー現象」と表現したように、われわれは、急速に移り行く現実を把握することができない。というのも現実を捉える言葉は、過去につくられたものだからだ。われわれは、過去を映し出す言葉を使うことによってしか、変化する現在と未来を眼差すことができないのだ。
後ろ向きのバックミラーのような言語は、急速に変化し生成する出来事を捉えるには不向きなのである。ただ真の芸術家のみが、新たな出来事を鋭敏に捉え、未来のヴィジョンを獲得することができるのだと、マクルーハンは言う。
そう考えるとワエル・ゴニムというエジプト革命のアイコンを生み出した、新たなオンライン上のコミュニケーションの流れは、彼らの意図に反した、まったく異質な未来をもたらすのかもしれない。