マルティン・ルターからワエル・ゴニムへ
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2013.04.16
グーテンベルク系の終焉から新たな銀河の形成へ
オンライン上のソーシャルメディアは、コミュニケーションにおける革命的変化の先端にある。電子メディアが有していた潜在的可能性が、オンラインのソーシャルメディアのコミュニケーションに典型的なかたちで現れている。
ブロードキャスティングやナロウキャスティングでは、単に受動的な情報の受け手であった消費者が、ウェブキャスティングでは活字・映像・音声・動画の能動的発信者に変わってしまう。ブログやFacebook やTwitter などのソーシャルメディアは、情報を独占し編集してきた少数のゲートキーパー(新聞・放送局など)が発信する一方向的な情報の流れとは異なった、情報とコミュニケーションの流れをつくり出している。
ネットワークの末端にいる無数の人々は、能動的発信者へと「反転」してしまった。マクルーハンの予言した「グローバル・ヴィレッジ」が、TV時代の司祭たちが神の教えを一方向的に垂れるカソリックミサのようなかたちではなく、すべての参加者が発言権を持つ古代ギリシアの民会や部族社会の合議制のような双方向的なかたちで実現したのだ。まさに「再部族化(retribalization)」である。
だが、この新たな部族化のプロセスは、流動的なものである。人々は、オンライン上の錯綜するコミュニケーションの渦の中で、集合離散を繰り返しながら無数のコミュニティをつくり、さらには解体させていく。こうなってしまうと、それまでの情報のセンターであった新聞社や放送局の絶対的優位性が瓦解してしまう。
すでにFacebook を通じたアリ・ブアジジのウェブキャスティングが、中東における革命の連鎖という世界史的出来事を生じせしめたことが、その証明となっている。グーテンベルク系の論理では生じえなかった情報とコミュニケーションの流れを、オンラインのソーシャルメディアが可能にしたのである。
ウェブキャスティングは、ブロードキャスティングを行う図体のでかいマスメディアという衰弱した恐竜の横を這いまわる敏捷な哺乳類のようだ。携帯電話やスマートフォンさえあれば、どこでも誰もが、オンライン上の出版社となり、放送局となりうるのだ。
情報を検閲し編集するマスメディアというゲートキーパーが、何事かを隠蔽することはすでに困難になっている。ゲートキーパーによって隠蔽されたり、捻じ曲げられた情報は、それを超えた情報に包囲されることにより、信頼を失っていく。
このようなウェブキャスティングの時代においては、佐々木俊尚氏が述べた「キュレーター」のような存在が信頼と発言権を得ていくだろう。
グーテンベルク系が育んだ文化と社会秩序が、電子メディアが生じせしめた新たな銀河系によって解体され再編成されつつあるのだ。われわれは約550年前に産声をあげた老朽化した銀河と異なった、電子メディアによって連結された新たな銀河がかたちを整えつつある時代に居合わせているのだ。その銀河のかたちの先端にFacebook やTwitter などのソーシャルメディアがあると考えてよいだろう。
またウィキリークスなどの積極的に国家機密を漏洩させるメディアが、ナショナルな正義を超えた、トランスナショナルな正義を担う新たなメディアとして認知されはじめている。ムバラク政権を攻撃することでエジプト革命を支援した、インターネットにおける情報の自由を守護しようとするアノニマスのような国際的なハッカー集団の存在もまた、新たな文化の前触れであろう。
そう考えると、かつての新聞社や放送局によってかたちづくられた「ナショナルな文化やアイデンティティ」から離れた、「新たな文化とアイデンティティ」がすでに形成されつつあると考えてよいだろう。