パサージュからネットへ〜資本主義の構造転換と消費社会の変容 第1回
さらに恐るべきことは、資本主義経済の根本的欠陥ともいうべき、周期的に襲ってくる恐慌である。大きな技術革新と連動した50〜60年周期で訪れる「コンドラチェフの波」、好景気とその反動としての不況との交代である9〜10年周期の「ジュグラー循環」、在庫処分と結びついた40ヶ月周期の「チキン循環」という周期的な景気循環の波に資本主義経済は痙攣的に襲われる。
特に長期的な景気循環であるコンドラチェフ循環によって訪れる大恐慌は、経済的な巨大な津波のように社会に壊滅的な打撃を与えてきた。1914年から下降期に入り1929年の大恐慌以降、慢性不況へと陥った世界経済は実のところ二つの世界大戦によって乗り越えられたのである。
近代戦争とは、その犠牲となる死者達を度外視してみれば、大量の兵器と様々な物資という膨大な商品群を一気に価値実現させ、それを蕩尽する。いわば慢性不況へと陥った断末魔の商品世界が吐き出す、強制的かつ巨大な在庫処分セールのようなものだ。そして戦費と戦後補償は、結局、諸国民の血税によって購われる。
19世紀後半以降、国民国家は国旗や国歌、様々な国家的記念碑などの美的な象徴装置によって自らを演出するようになった。既に理性を腐食させ美的な誘惑に捉えられていた人々は国民国家によって扇動され、第一次世界大戦という死地へと自ら進んで赴いたのである。
このようにアーケードを飾った美的な商品の煌びやかさと残酷な戦争は、資本主義と国民国家という二つのシステムの自己維持と結びついた同じ本質の異なった現れなのである。
ベンヤミンの批評の闘いは、多くの仲間達の命を奪った第一次世界大戦を生み出した時代の根源を理解することと、その根源から立ち現れ、自らを死においやった時代の猛威であったファシズムに対抗することにあった。美的に演出された華やかなパサージュは、二つの世界大戦という近代の地獄と地続きなのだ。
第2回へ続く