ソーシャルリーディングが変える電子書籍の今と未来
読書体験を共有するソーシャルリーディング
電子書籍によって、新しいムーブメントも起きている。それが「ソーシャルリーディング」だ。
ソーシャルリーディングを一口に言えば「読書体験の共有」ということになるだろうか。たとえば自分が読んでいる作品の感想を書きこんだり、他の読者の感想を読むことができる。
これだけならば、複数人で本を持ち寄って内容について議論する「読書会」などを開催しているグループもあり、それほど目新しいこととは言えない。また、SNSや巨大掲示板などで本の感想を書き込んでいるグループもあることから、電子書籍ならではという印象は薄い。
しかし、電子書籍により新しい形のソーシャルリーディングのスタイルが形成されつつある。
2010年8月にiPad アプリとして登場した「Qlippy(クリッピー)」は、iPad で読んでいる電子書籍の文章をスクラップしたりコメントを付けることが可能。同時に、他の読者のコメントもリアルタイムで反映され、読むことができるというものだ。ただし現在は公開停止となっており、再開を望む声が多い。
先に紹介した「パブー」を運営するpaperboy&co. では「ブクログ」(http://booklog.jp/)というサービスを行っている。こちらは、登録ユーザーの「本棚」という位置付け。読んだ本を自分専用の本棚に登録し、レビューを書き込める。同時に、他のユーザーのレビューも閲覧することができる。
他のユーザーをフォローする機能もあり、フォローしたユーザーが新しい本を本棚に登録したりレビューを投稿したりすると、すぐにわかるようになっている。いわば、本を介したコミュニティサイトなのだ。
本を読むだけではなく、他者とつながる。それがソーシャルリーディングの醍醐味と言えるだろう。
一方、「Kindle」では、読んでいる電子書籍の気になる部分をハイライト表示にする機能がある。これをTwitter やFacebook へ投稿することができ、よりリアルタイムでの読書体験の共有が行える。ご存知のとおり、現在では購入した電子書籍をユーザー間で貸し借りすることができるサービスも始まっており、ソーシャルリーディングの面ではかなり先を行っている印象だ。
ソーシャルリーディングは、読書好きの人たちの間ではもはやかなり浸透していると言ってもよい。ただし、電子書籍との関係性は、日本においてはまだ強いと言える段階ではない。
今以上に電子書籍のコンテンツが充実し、ダウンロードしやすい環境が整ったとき、はじめて一般の人たちが電子書籍に興味を持つのではないだろうか。現在では、一部の本好きと関係者、そして流行に敏感な人たちの間でしか、注目されていない状況と言える。
紙の媒体と電子書籍を同列に論じているようでは、日本における電子書籍の未来は明るいとは言えない。紙媒体の代わりではなく、電子書籍という新しいプラットフォームで、何ができるのか、何をすべきなのかを考えてこそ、電子書籍の発展につながるのだ。
「本を選ぶ」体験を電子書籍でも実現する
電子書籍は、通常の書籍や雑誌に比べ、やや買いづらいという印象がある。
これは、「事前に内容をチェックできない」というのが大きな理由だ。
通常の書籍や雑誌は、書店で「立ち読み」をすることで内容をチェックし、おもしろそうだと感じたら購入するというフローがある程度、確立されている。しかし、電子書籍では内容の一部を読めるものもあるが、ほとんどがタイトルと表紙の画像、作者名くらいしか事前情報を得ることができない。これでは、安心して購入できないと感じてしまうことだろう。
これを解消するひとつのアイデアとして、「電子書籍専門書評サイト」がある。内容を立ち読みできない電子書籍を選ぶ際に、その参考となるような書評を掲載し、購入のための情報を与えることができれば、ユーザーも安心感が増し、さまざまなタイトルに興味を持ってダウンロードすることができるだろう。
もうひとつ、電子書籍端末の種類を超えた、電子書籍のポータルサイトのようなものが必要であろう。これにより、端末別に分散している電子書籍を一同に集めることができ、規模感が大きくアップする。
そして、どの電子書籍端末からもアクセスでき、タイトルごとに各端末向けのファイルを用意することができれば、ユーザーはそのポータルサイトだけを利用すればよいことになる。
実現にはさまざまな問題をクリアしていく必要はあるだろうが、今後、電子書籍が一般的になるにあたっては、このくらいのことは必ず必要になるはずだ。出版社や端末メーカーは、自分たちだけの利益確保を優先するのではなく、電子書籍という新しい形態のコンテンツをどのように普及させていくのかに腐心しなければ、いつまでも現在のような中途半端な状態が続く。もっと電子書籍のメリットと、その普及に力を注いでいくべきだ。