システムとサービスのシナジー

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ユーザーに何を伝えるか

こうした考えに至った大きな要因は「本」だった。2002年の創業とほぼ時を同じくして、グループのユナイテッドワールドインベストメント(当時、以下UWI)の社員が『10万円から本気で増やす中国株』というタイトルの本を上梓。中国株投資のノウハウをわかりやすく書いたこの本はベストセラーになり、半年後には第2弾『10万円から本気で増やす中国株 特選50銘柄』が出た。

「当時はまだ、中国株の存在が一般に広く知られていませんでした。この2冊が、中国株と弊社の認知度を高めてくれたんですね。ですので、アナログな情報の有効性は早い段階から認識していました」

それに加え、UWIが有料のメールマガジンサービスを開始。本を著わした社員が現地取材による企業レポートを書き、これが評判を呼んだ。

「このレポートは、非常にわかりやすかったんですね。たとえば、中国の自動車メーカーを訪問したとき、車を叩いてみたら『カン』と音がしたというようなことが書いてあります。安い車を製造しているのはいいが品質の部分がリスクになるということが、投資家の方にすぐわかるわけです。日本のホンダが進出して、デンウェイ・モーターズという会社を設立して技術提供することになった。そうすると、ホンダの技術を吸収することで会社が伸びるというのがわかる。このメールマガジンで中国株に興味を持った方は、少なくなかったと思います」

折しも、香港市場が活況を呈しはじめていた。香港市場の代表的インデックスであるハンセン指数は02年末には9300ポイント台だったが、右肩上がりで伸び続け、05年末には1万4800ポイント台に上昇。3年間で60%近い上昇率となった。

相場の活況に、香港市場とダイレクトで結ばれたシステム、そして情報が結びつき、ユナイテッドワールド証券の約定件数は伸びていった。

06年頃になると、ユナイテッドワールド証券の情報提供が「質」「量」ともに大きく変化を見せる。これには、投資家の属性の変化とITテクノロジーの発達が影響している。技術の特性を活かす

中国株のインターネット取引を始めた当時、顧客の中心になったのは投資初心者だった。日本株への投資経験などがなく、中国株で投資を始めた人たちである。それが中国株投資が浸透するにつれ、日本株の投資家が中国株も取引するようになった。こうした投資家は、日本株でなされているレベルの分析を中国株にも求める。

「そこで、日本株の専門家であり、アジア市場も10年以上リサーチしていたベテランアナリストを会社に招きました。彼は日本企業と同じように中国の企業を分析できますし、日本

も中国も見ているので比較ができるんですね。たとえば、『この中国企業は日本でいうといつ頃のどの企業に相当する』というようなかたちです。ですので、日本株しか取引されていなかった方にも中国株を理解していただきやすかったと思います」

アナリストによる市場や企業の分析レポートを、無料メールマガジンやWebサイト内の記事として配信しはじめた。さらに、インターネット上での使用が活発になりつつあったムービーをWebサイトに採用する。

「ムービーを使い始めたのは、06年末でした。これは、テクノロジーで可能になったことですね。株式市場や経済状況についてアナリストが分析した内容をテキストで伝えると、どうしても堅苦しくなる部分があるんです。しかし、バーチャルではありますがムービーを通じてフェイス・トゥ・フェイスでお客様に語りかけると、印象が違ってきます。テキストだと『昨日の香港市場は大幅上昇となった』のようになるのですが、ムービーだと『みなさん、昨日の香港市場はすごく上がりましたね』というようにやわらかく語りかけられます。ムービーをアップすることで、定期的にWebサイトを訪れる方が増えました。テキストとは違った特性を持ったツールとして使っています」

ほかにも、テクノロジーが可能にしたコミュニケーションツールがあった。ネットセミナーである。ユナイテッドワールド証券では、会場に来た参加者に講師が話をする通常の形式のセミナーを定期的に開催していた。こうしたセミナーでは投資家に直接話ができるなどの利点がある一方、会場から遠方の投資家が参加しづらいといった制約がある。

しかし、ネットセミナーはインターネットに接続できる環境があれば場所を選ばない。

「可能性は感じたのですが、お客様からどのような反応があるかはわかりません。『とにかく一度試してみよう』というスタンスでスタートしました。今でこそネットセミナーは一般的になっていますが、当時は黎明期。システムをご提供いただく会社と『こういうことはできませんか』『やってみましょう』というようなやり取りをしながら進めていったかたちですね。実際にやってみると、好評でした。セミナーは平日の夜8時からにしたのですが、『会社から家に帰って、くつろぎながら見られるのがいい』という声をいくつもいただきました。以降、定期的にネットセミナーを行っています」

 

ITにできないこと、人にできること

現在、ユナイテッドワールド証券ではWebサイト上のテキストとムービー、ネットセミナー、会場開催の通常セミナー、メールマガジンを通じて情報提供を行っている。5月18日には、これにTwitter が加わった。

「投資の判断材料になりうる情報は、分析が非常に重要です。これはやはりITとは離れた、人の手によらなければできない部分です。たとえば、この4月に中国政府はかなり強い不動産投資抑制策を打ち出しました。今、弊社には中国人のアナリストがいるのですが、この政策にはバブルを抑制する目的のほかに国家の威信を取り戻す意図があることが、同じ中国人である彼にはすぐ読めた。実は、それより前に政府が出した窓口指導が事実上、無視されていたんですね。政府の指導力低下は一党独裁の中国にとって致命的ですから、威信を取り戻す強い行動にすぐ出たわけです。こうした人による分析情報を、ITによるシステムと結びつけて発信していきたいと思っています」

 

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